基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

5.熱と温度の関係

株式会社ジィーサス

2010.11.25

そう考えると、温度計が示すものは温度計内の液体のエネルギーの大きさということになります。もちろん液体を構成する原子や分子の個々が持っているエネルギーには大小の違いがあるので、正確には「エネルギーの平均値」ということになります。前回記載したように加えるエネルギー量の単位はジュール(J)ですが、温度の単位は度(℃)またはケルビン(K)です。ケルビンは熱力学温度といい、0ケルビンとは原子や分子が持つ運動エネルギーがゼロの状態を表します。度(℃)はセルシウス度(摂氏度)のことで、1気圧のときの水の凝固点を0、沸点を100とした温度です。普段の生活では直感的にわかりやすいセルシウス度のほうが使いやすいのですが、エネルギー計算などを行う場合は絶対零度(エネルギーなしの状態)を基準としたケルビンのほうを使います。
歴史的には「あつい、さむい」の感覚に単位を与えた温度という単位が先に使われ、温度と熱は同じに考えられていましたが、たとえば氷を温めて水にする場合、融点では熱を与え続けても温度が変化しないなどの現象が発見されてから、熱と温度が別モノであると考えられるようになりました。

th_101125_5.JPGなぜ氷は水になるとき、融点で熱を与え続けても温度変化がないのでしょうか?
そもそも物質は原子分子が結合してできている、という話は学校で習うと思うのですが、原子分子が結合するということは、具体的には何かの力でつながっているということになります。その状態の物質に熱(エネルギー)を加えると、原子や分子はそのエネルギーを運動エネルギーとして保持しようとするので、原子分子は動こうとします。ここで原子や分子同士の結合は、ミクロ的にはガッチリ固まっているのではなく、ちょうどバネでつながっているような状態なので、原子分子がエネルギーを得ると振動するようになります。加えるエネルギーを多くすると原子分子の振動は大きくなり、原子分子同士が結合している力より運動エネルギーが大きくなると、結合が外れて自由になることができます。マクロ的にはこれが「固体が溶ける」という現象になります。
この原子分子同士の結合を外す時にエネルギーが必要なため、見かけ上のエネルギー、つまり温度は、熱(エネルギー)を与えているにもかかわらず変化しないということになります。固体から液体、液体から気体に変化することを相変化と言います(固体・液体・気体をそれぞれ固相・液相・気相と呼ぶため)が、この相変化に必要な熱(エネルギー)を潜熱と言います。逆に温度変化を与える熱(エネルギー)を顕熱と呼ぶ場合があります。

th_101125_6.JPG先ほど「固体はばねでつながれたような状態なので、原子分子がエネルギーを得ると振動するようになります」と書きましたが、たとえば実際に何個かのボールをバネでつないだとして、一つのボールを手で振動させると、その振動はつながれたボールにも伝わっていきますよね?ミクロの世界でも同じように振動は伝搬するのですが、これは熱(エネルギー)が固体の中を伝搬する原理となっています。つまり固体が熱を伝えるという現象は、固体を構成している原子や分子の振動が伝搬していくからだと考えられます。この振動のことを量子力学では「フォノン」と呼んでいます。(または格子振動と言います。)
なお、固体のエネルギー伝搬は振動だけかというと、そんなことはありません。もうひとつエネルギーを伝える役者がいます。それは電流を作る立役者である電子です。ただし電子も固体として結合している場合は振動を伝えるだけになりますが、金属のように自由電子を持つものは、自由電子が熱(エネルギー)を運ぶことになります。このため自由電子を持つ金属は、自由電子を持たない物質(非金属)より熱を伝えやすいのです。
逆に電気が伝わらない物質も熱を伝える理由が、原子分子の振動で説明できます。電子は熱(エネルギー)を得ると運動エネルギーが大きくなるので動きやすくなりますが、周りの原子分子も振動しているので、原子分子にぶつかりながら動いているといったイメージになります。このため大きなエネルギーを電子に与えると、原子分子にぶつかってその結合を破壊してしまうこともあります。また逆に温度の高い物質の中では、原子分子が振動しているため自由電子がぶつかる確率が大きくなるので、電子は動きにくくなります。この現象をマクロ的に見ると、前者が「熱暴走」で、後者が「熱による抵抗増大」ということになります。

熱と温度の関係を説明するつもりが、固体の熱伝導の話まで先走ってしまいました。でも何となく熱と温度の関係をイメージできたのではないでしょうか?温度計の話に戻ると、温度計も中の液体を封入している外側は固体(たとえばガラス)でできています。中の液体にエネルギーを伝えるためには、外側の固体にもエネルギーを伝える能力がないといけないわけなので、ちゃんと温度計のしくみを理解するには固体の熱伝搬のしくみも理解する必要があります。
固体の熱伝搬のことを「熱伝導」といい、後で説明する「伝熱三態」(熱の伝わる形態は3種ある)の一つになります。熱伝導による熱の伝わりやすさは、その個体を構成する原子分子の元素や結合方法、自由電子の数などで違ってくるので「物性値」(物質固有の値)となり、これを「熱伝導率」と言います。自由電子を持つ金属の場合、自由電子の量が多いと一般に導電率も熱伝導率も大きくなるので、普通は導電率と熱伝導率は比例します。(これをWiedemann-Franz則と言います。)

なお、電流としての電子は電圧差で移動しますが、熱(エネルギー)としての電子や格子振動は、温度差によって移動します。次回はこのあたりの話を続けたいと思います。


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●執筆者プロフィール
藤田 哲也
1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

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