基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

2.基板と熱設計の関係

株式会社ジィーサス

2010.08.26

さて、難しい話は後回しにするとして、皆さんは直感的に基板の放熱性をどう思いますか?

ご存じのように基板は導体である銅箔と絶縁体でできています。このうち銅箔は熱をよく伝え、絶縁体はあまり熱を伝えないことは経験でわかっていますよね?ベタ層にはんだ付け用のランドを設けるときは「サーマルランド(熱抵抗ランド)」を設けますが、あれって具体的には銅箔を削ることで熱を逃げにくくしているのですよね?
つまり基板は熱の通りやすい銅箔と通りにくい絶縁体でできており、熱を通りにくくするには銅箔を少なくすればいいことになります。逆に熱を通しやすくするには銅箔を多くしてやれば良さそうですね。

では片面基板と多層基板ではどちらが熱を通しやすいでしょうか?これは当然多層基板ですよね。最近の基板はEMCや伝送線路特性、更に環境問題などから銅箔を残す方向で製造されていますが、これは放熱特性の面でも良い傾向なのです。しかしここで問題が生じます。先ほど熱抵抗ランドのことを書きましたが、銅箔が増えると放熱性が良くなるため、逆にはんだ付け性は悪くなってしまいます。

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厳密にいえば放熱性だけでなく、同時に熱容量が増えることが問題なのです。実験のため万能基板の独立したスルーホール1個をはんだ付けするときは20Wのコテで十分ですが、ベタ層に熱抵抗ランドなしで形成されたスルーホールにはんだ付けするには、60Wのコテでもかなり予備加熱が必要ですし、たった1個のスルーホールをはんだ付けするだけでも基板全体が熱くなってしまいます。
熱容量とはコンデンサの静電容量と同じようなものだと考えてください。コンデンサに直流電流を流すと電荷が溜まるまで電圧が上昇しますが、銅箔も熱が溜まるまで温度が上昇します。大きな銅箔をはんだが溶ける温度まで上昇させるには、かなり多めの熱が必要になるのです。そうなるとリフロー槽の温度プロファイルの見直しだけでなく、それだけの熱を加えて電気部品は大丈夫なのか?など、いろいろ検討が必要になってきます。しかし鉛フリーはんだへの転換を経験されているメーカさんなら、対策手法は分かっているのではないかと思います。

銅箔の熱容量の関係を少し詳しく書きましたが、実は意図的にコンデンサの静電容量と対比させて書いてみました。熱容量は静電容量と似ていると書きましたが、同じように電流を熱に、電圧を温度に対比させて書いています。熱と温度の関係は電流と電圧の関係と同じようなものなので、機械屋さんよりかえって回路屋さんの方が分かりやすいのではないでしょうか?

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この考えから類推すると、熱抵抗の意味も簡単に理解できると思います。つまり、熱抵抗に熱を流すと温度差ができるのです。このあたりの話は次回以降に詳しく説明していこうと思います。

話を基板に戻します。基板の放熱性が良くなると利点だけでなく欠点も出てくることは理解いただいたと思いますが、それでも今後の基板は放熱性をよくする必要があります。それは電気部品が小型化してきたため、電気部品だけでは放熱面積が足りなくなっているからです。
たとえば0402のチップ抵抗(高さ0.13mm)の表面積は0.316㎟です。この抵抗に定格電力たとえば0.03Wを流すとどれくらいの温度になるでしょう?普通に計算してみると温度上昇は約600℃になります。仮に定格電力の1割しか流さないとしても約140℃程度の温度上昇になってしまいます。これではとても単体では使えないのではないでしょうか?(基板に搭載して使うためにチップ部品になっているので、単体で使う人はいないと思いますが。)いずれにしても、チップ部品や面実装部品を使う場合は基板の放熱性も含めて検討する必要があり、そのためには基板の熱抵抗を把握した設計が必要になります。

では、基板の放熱性を具体的に大きくするにはどうすればいいでしょうか?銅箔面積を大きくすれば良さそうに思えますが、それだけでしょうか?
実は放熱面積を単純に増やすだけでなく、増やした面積を有効活用するために、その面まで効率よく熱を運ぶ必要があります。具体的にいえば、たとえ銅ベタ面積を増やしても、発熱部品から銅ベタまで細いパターンで繋いでいるだけだと、増やした面積を有効活用できないことになります。もし細いパターンで繋ぐと、まず熱の通り道が細いため熱抵抗が大きくなります。それだけでなく、熱は銅箔を伝わるとともに銅箔表面から周囲空気に放熱するため、パターンが細いと銅ベタまで熱が伝わる前に周囲空気に放熱してしまい、銅ベタを設けた意味が全くなくなってしまいます。また当然のことながら信号パターンに銅ベタは設けられません。なぜならパターンインピーダンスが急変すると反射を起こしてしまうからです。

このように基板の放熱性を高めようとしてもいろいろと設計制約があるので、これらの設計条件整理が今後の課題になってくると思われます。将来的には、たとえば絶縁体は今のところエポキシ樹脂が主流ですが、複数種類の熱伝導率の絶縁体を使い分けることで基板の温度制御を行う、ということも考えられるのではないでしょうか?導体もそのうち銅を超える熱伝導度・電気伝導度の素材が出てくれば、将来的には設計手法が変わっていくかもしれません。
なんか製品設計というより化学研究のような話をしていますが、半導体の設計がそうであるように、周辺技術の寸法レベルもどんどん小さくなってきています。これを製品設計とは別の次元の話だと思わず、少し視野を広げてその仕組みを理解しようとすると、そのうち熱や電気の流れが見えてくるのではないでしょうか?そうなると対策も検討しやすくなると思います。次回は熱設計の効果について説明します。



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●執筆者プロフィール
藤田 哲也
1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

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