基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

1.なぜいま熱設計がホットな話題なのか?

株式会社ジィーサス

2010.07.22

設計者ならわかると思いますが、自分で同じ失敗を何回も繰り返すことは少ないですよね?失敗するとすごくショックだし、事故対応は待ったなしで、しかも責任は自分にあるので全ての作業に負い目を感じながら対応するため、強烈な印象を残します。ですので、一人が同じ失敗を何回も繰り返すことはあまりないと思います。また事故は会社も損害を出すので、再発防止のための努力を実施するはずです。にもかかわらず事故が減らないのは、そうした自浄機能が何らかの原因で作用しなくなったためのようです。

この10年で設計を取り巻く環境は大きく変わりました。バブルがはじけた後の急激な価格破壊で、メーカは自社内一貫設計・生産スタイルから分業&アウトソーススタイルに大きく変換し、品質よりむしろコストを優先してきました。その一方で品質管理はグローバルスタンダードという名のもとに画一化され、製品品質よりむしろドキュメント管理が優先された感があります。さらに生き字引であった団塊世代が引退し世代交代したことによる影響などで、「見えない品質」にお金をかけるメーカが少なくなってしまいました。その結果、設計者が製品開発に関与する期間が自部門工程内だけとなってしまい、自分の設計結果すらわからない、という状況が増えているようです。こうなると自分の設計が成功したのか失敗したのかわからないので、失敗経験は確実に少なくなってしまいます。また分業化は責任所在を不明確にするため、ますます「失敗した」という感覚は減ってしまいます。このような状況が事故に対する自浄機能の欠如につながっているものと考えられます。

その中で特に熱問題は、極端に熱い場合は別として、一般に評価試験における不具合発生率は少ないため見落とされる確率が多いのだと思います。なぜなら熱問題はEMCのような過渡問題と違って定常問題のため、評価機ができてすぐ評価しても不具合が発生するような問題ではなく、2~3年使って初めて不具合が発生する、というような問題が多いからです。品質よりむしろ信頼性への影響が大きいのが熱問題です。最近は信頼性のそのまた先の問題、製品が寿命を迎えた後の事故も目立ってきていますが、こちらは国がPSEマークで対処しようとしたが中古業者に反対され、法改正されたことが記憶に新しいかと思います。
単なる信頼性問題、たとえば「10年使い続けてある日動かなくなった」というだけならそれでもいいのかもしれませんが、「10年使い続けてある日、火が出て家を焼失した」だと、今度は信頼性ではなく安全性の問題になります。残念ながら最近の熱問題はこのケースも多いようで、冒頭の事故検索結果にもかなり重大事故が含まれています。安全性はメーカが絶対譲れない境界ラインだと思っているのですが、これも今は危うくなっているのが現実のようです。
ここまで堅苦しい文章を読んでいただけたら、いまなぜ熱設計が求められているのかが何となくわかっていただけるのではないでしょうか?

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熱に起因する信頼性問題は地味で普段は目立たず、かつ対処には部門間の協力が不可欠な問題であるため、価格破壊後の低成長期にどうやらプライオリティが下がってしまったようです。その結果と、「PSEマーク以前製品」の経年変化問題が最近ほぼ同時に不具合となって表れていることに加え、小形・高密度化の結果として実際に製品が熱くて動かない、という品質面の問題が同時多発している状況から、世の中が熱設計を求めるようになったのだと思います。それと同時に部品の高機能化によってメーカの敷居が低くなり、たとえば「LEDランプ」のような製品は容易に製造できるようになったが、以外と熱問題が多くて手を焼いている、という市場動向も影響しているのだと思います。

逆に見ればこの状況は「次世代製品、次世代市場の生みの苦しみ」と捉えることもできます。グローバル市場の中での日本のアドバンテージはやはり「高機能・高品質」であることが再認識され、それを支える技術やしくみがまた脚光を浴びている、という見方もできるわけです。日本のバブル期は単なる儲け主義で終わったのではなく、品質や技術も突き詰めていた時代だったと思いますので、「今はその投資回収の時期だ」と捉え、改めて今まで培ってきた技術を見直してみるのもどうでしょうか?そのきっかけとして、熱設計を改めて見直してみてはいかがでしょうか? 次回は基板と熱設計の関係について説明します。



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●執筆者プロフィール
藤田 哲也
1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

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