Club-Z特集:Zuken Innovation World 2014 アカデミックセッション特別レポート②(後半)

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03

☑Club-Z特集

Zuken Innovation World 2014アカデミックセッション特別レポート②

ICL(Innovation and Creation Learning)と
創造的な技術者の育成
─ 横浜国立大学 大学院工学研究院 于教授による講演内容のご紹介 (後半)

2014.11.20

ICLの重要な柱

ICLの重要な柱は2つです。ひとつは“本質的なものの見方”で、もうひとつが“強い意志の鍛錬”です。この“本質的なものの見方”を説明するととても時間がかかるので、今回は、“強い意志の鍛錬”について説明します。

例えば、会社のミーティングに参加するとします。ある人が提案をすると、大半の人がそれに対して意見を言います。そして大半の人が、意見を言いっぱなしにしてしまいます。これをICL的に分析すると、“他人の発表に対してネガティブな課題を指摘する”ということで、意志が弱いことの現れとなります。なぜならば、良いところを褒めずにダメなところを指摘するというのは、いかにも「お前はダメで、俺が正しい」という心理的な穏やかさを求めているということなのです。

ICLではトレーニングとしてミーティングに参加者全員に、発表者の提案に対して次の3カ条を守ってもらいます。
一つ目は、良いところは一生懸命探して述べてもらいます。よほど覚悟していないと人の良さを見つけるのは難く、人を褒めるということは容易なことではありません。
二つ目は、必ず課題を指摘してもらいます。これは、先ほどの話「心理的な穏やかさを求めている」と同じじゃないかと思われますがこれに続いて三つ目として、課題とともに対案(提案)も出してもらう点が異なります。

発表者がどういう心構えで臨むのが良いか、それは言ってもらえた良いことはさっさと忘れることです。良いことを聴いて穏やかになって終わると、それで一日が終わります。
ただ、良いことを言われていると、その後の指摘されたことを謙虚に受け入れることができるようになります。その上で何をすべきかというと、言われた指摘の対案をすべて集約して、自分なりの提案の完成案を作成します。
これをグループの中で順番にやってもらい、意志のトレーニングを行います。

意志のトレーニングは、様々な場面で行えます。例えば、あるアイデアを思いついて発表すると、人から意見を言われます。自分のアイデアが大事だと、あの手この手で無理やり守ろうとするのが普通です。人間は意志の強さを持っていないと、自分を守りたくなるからです。人間の脳というのは常に怠けようとするため、楽な方に行こうとします。知らないこと、自分ができていないことを指摘されると、脳は別の努力をしなければいけないと判断し、自分を守ってしまいます。自分が未熟なもの、できないものを意識して頑張り、できることはさっさと忘れる、これができるのは、意志の強い人間だけなのです。

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(図4:ICLの実施例)

図4は実際に実施したプログラムです。1番目は現状を理解すること、いかに世の中のニーズが代わっているかを理解してもらいます。4番目で、我々人間は何ができて、何ができないかを考えます。すると学問の難しさが何なのかが、理解できます。ICLでいうものの考え方とは、我々のアイデアというわけではなくアインシュタインからスタートしている考え方です。

アインシュタインのものの考え方

学習というのはどういうものなのかというと、本屋に行って、あれこれ本を買って家に持って帰るプロセスと同じです。次にどういう本を買って帰るか分からないので、買った本を適当なところに収めるわけです。学習では、これが記憶です。いろんな本があったとしても整理整頓していないと頭の中はゴミ屋敷になります。難しい話というのはいろんな本の情報を集約して新たな知見をみつけ、足さないといけません。ゴミ屋敷をちゃんと整理整頓すること、これがアインシュタインのものの考え方となります。

要は自分の頭の中に入れた情報を整理整頓して、使いやすい図書館にすることです。これがトレーニングの基本です。いま我々が抱える難しい課題と比べ、自分がアウトプットする能力は昔に比べて相対的に落ちています。人間の能力は変わっていませんが、問題が難しくなっているのです。新たな難しい問題に対して、技術者がいかにチャレンジしていくかという作業を今の開発現場でやらなければ、目的を達成するのは非常に難しいと思います。これは、ICLというトレーニングを受け、CAEと組み合わせることによって解決できると思っています。