Club-特集:実装軽視に物申す!

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03

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実装軽視に物申す!

第3回:JISSOでもう一度日本が勝つ道 キーワードは「3D」と「規格化」

福岡大学 工学部 電子情報工学科教授・工学博士
友景 肇


2011.09.29

■部品内蔵基板設計用データフォーマットFUJIKO誕生
3次元SiPの設計が終わると、設計データは、基板製造のためのCAMデータに変換され、基材へのドリルによる穴あけ、めっきのためのリソグラフィ用のマスクデータ、パターンが正しく形状されたかを検査する装置AOI (Automatic Optical Inspection)のためのデータ、基板の電気的検査用データとして使われる。一般的には、Gerber形式のデータフォーマットで、これまでやり取りされてきた。しかし、矩形または円形のつなぎ合わせパターンのため、3次元構造は記述できない。従って、部品内蔵基板規格EB01で定義した基板内部での部品の接続点などを記述することができない。また、基板の電気的検査の場合に必要となる接続情報や部品情報を持たないために、検査の前にGerber形式のデータから逆に検査に必要なデータを作りだすことが求められ、設計時の3次元データが活用できない状況が起こっている。

また、各基板メーカではGerberデータに固有の拡張子を付加しており、これを理解しなければ、正しく基板を作ることができない。各社でデータ構造が異なり、いわゆる方言が存在している。数年前にこの方言の存在を知り、標準語に統一する必要を感じた。どのCADで設計しても、そのままで基板製造できるべきである。

そこで、福岡県のクラスター事業で3次元データフォーマットの開発を始め、今年FUJIKOとしてVer.1.0が完成した。FUJIKOデータは、完全3次元の接続情報と座標情報を持ち、部品内蔵される電子部品の形状や接続点も記述できる。従って、熱や電磁界解析のシミュレーションもFUJIKOデータを使うと可能となる。

日本電子回路工業会(JPCA)では、部品内蔵基板の規格として、EB01を2008年に発表し、この中で内蔵部品の接続点を標記する方法を規定した。この標記法に従い、部品内蔵基板のデータフォーマットを規格化する新しい規格書EB02を策定し、今秋に発表の予定である。JPCAはFUJIKOフォーマットを部品内蔵基板の設計データフォーマットと規定するということである。また、(株)図研はじめ、国産三社のCADに今秋FUJIKOのインターフェース機能が実装される。これによって、日本の基板設計CADの出力形式がFUJIKOで統一され、異なるCAD間でのデータの受け渡しが可能となる。しかし、それ以上にFUJIKO誕生の意味は大きい。


■日本の生きる道
CADで設計されたデータは、CAMデータや検査データ、電気試験データに変換されるが、CADデータがそのままCAM側へ渡されることはない。設計のノウハウがCADデータには含まれているためである。従って、結果的に制限されたデータが渡される。そうなると、不足する情報を補うために、例えば検査装置側で、CADでの再設計が行われることがあり、検査プログラム作成に時間を要してしまう。しかし、FUJIKOデータを使えば、図4に示すように、設計データは設計ノウハウを開示することなしに必要なデータだけを直接製造装置へ送ることができ、短期間での試験が可能となる。これは、コスト削減になるだけでなく、企業の競争力を高めることにつながる。日本の実装関連企業間でFUJIKOによる高速のデータ交換が可能になれば、どのようなデータを使用しているかも開示する必要がなくなり技術の囲い込みが可能となる。

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図4 FUJIKOを用いた3次元実装設計から製造への流れ


これまで、標準化や規格化は日本人には向かないと言われてきたが、部品内蔵基板という3次元実装に限れば、EB01、EB02という規格が生まれ、世界標準を目指した活動が進んでいる。そして、日本のCADの出口がFUJIKOで統一され、これによって日本企業の競争力を高める動きが始まった。半導体と同様に、実装基板製造の中心も既に地球儀の上での重心点が、日本から西の方向にずれており、再び日本に戻ってくることはないであろう。しかし、実装で生きていく道はある。【外に対しての標準化】【内に対しての技術の囲い込み】である。

試験方法などは、仲間内で標準化して外に対して規格として発表する。工法や製造技術は、仲間内で集めた知見をブラックボックス化して、顧客には材料、装置などをパックにして使ってもらう。言うは易くで、これまで日本での成功例はないかもしれない。しかし、部品内蔵基板に関しては、JPCAが世界で最初となる規格書を作成し、信頼試験方法などが標準化された。また、三次元半導体研究センターという企業を越えて知見を集める場が出来上がり、FUJIKOを介して設計から製造まで高速で機密性の高いデータのやり取りが可能になろうとしている。