Club-Zコラム第27回

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03

コラム


同時にやるシクミづくりとヒトづくり。
やっと気づいた改革の本質

【第27回】成長している実感はありますか?

株式会社RDPi  代表取締役 石橋 良造

2013.05.30


前回は「チーム体制」について紹介しました。「チーム」は普段から使っている言葉なので新たな気づきにはつながっていないかもしれませんが、チームを実践することは簡単ではなく、行動はもちろんのこと、考え方の深いところまで変える必要があることを覚えておいてほしいと思います。

先日、チームでの開発を実践している会社を訪問しました。刺激的で感心する話をたくさん聞けたのですが、とくに興味深かったのが、すべてのプロジェクトに対して責任を持つマネジャーのセリフです。

「開発プロセスやマネジメントは否定しませんが、一番大切なのはメンバーに対する『愛』です」

彼が PM に伝え、実践しているのは、開発を進める上で守るべきことやプレッシャーはたくさんあり、様々なトレードオフや判断を迫られるのが常だけれども、最も大切なのは、メンバーの一人ひとりが最大の価値を発揮できるようにすることであり、メンバーへの「愛」がそれを可能にするということでした。

表現は別にしても、多くの人がそうありたいと頭ではわかっていて、でも、現実に実践することは難しいと思っているのではないでしょうか。しかし、この会社は実践しており、業界でも革新的だという評判をもらい、急成長しているのです。だからこそ、「チーム体制」の実践について真剣に考えてほしいと願っています。

「チーム体制」を実践するには、深いところで考え方や行動を変える必要があるのですが、これは「成長する」と言い換えることもできます。一人ひとりがより高いレベルに向かって変わることを「成長」とよぶのですから。今回は、「成長」をテーマにして、前々回から話をしている開発現場を変える3つのキーワードのひとつである「経験学習プロセス」を紹介したいと思います。

成長してほしい人は誰?

人は成長することに喜びを感じます。常に成長している実感を持つことができれば、仕事そのものが楽しいですし、成果にも自分なりの納得感があります。

そんな経験をしたのはいつですか?
今もそんな経験をしていますか?

興味深いデータがあります。リクルートワークス研究者が行った「ワーキングパーソン調査 2012」の中の、年代別に成長実感を持っているかどうかの調査結果です。かなり詳細なデータなのですが、正社員の成長実感について、「どちらともいえない」以外の「持っている」と「持っていない」人の割合をグラフにしてみました。

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グラフを見ると、年齢とともに成長実感を持っている人の割合が減っていることがわかります。20歳代前半は 50% 以上の人が成長実感を持っているのに、40歳を過ぎると成長を実感しているのは 40% 近くに減っています。

また、成長実感がないという人も年齢とともに増加する傾向がありますが、どの年代でも 20% 前後、つまり、5人に1人は成長実感がない人がいるというのが印象的です。

この調査結果からは、年齢が上がっても成長できることと、成長実感がない人への働きかけが必要だといえますが、いくつかの開発現場でも同じことを聞きました。

  • 「部長や課長になれない人は若手を育てることもなく、ずっと同じことしかしない」
  • 「ワークライフバランスと言いながら、仕事への情熱をなくして趣味に走っている中堅が多い」
  • 「やる気がない人がいるのはわかっているが、どうしたらいいのかわからない」

中堅やベテランとして活躍してほしい 35歳以上の人たちが成長実感を持てないこと、常に5人に1人は成長していないと感じていること、このどちらも大きな損失だといえるでしょう。

成長とは、できなかったことができるようになったという実感であり、成長するために必要なことは広い意味での学習です。単に知識習得ではなく、考え方や行動が変わるという学習です。学習を促す人材育成などの仕組みは、この調査結果が示すような現実の問題に答えていないのではないかと思います。

考えるべきは学習方法

前々回から言っていますが、製造業にとって今の大きなテーマは技術者育成だと考えています。組織の視点では人材育成、技術者視点では学習です。目指すところは個人の成長であり、その結果として組織の成長があり、それが技術力や開発力の向上につながるのだと思います。組織の今の教育や育成の仕組みは、個人の成長につながるものになっているでしょうか。

いくつかの開発現場を見て思うのは、教育や育成は「何を」学習させるのか、学習するのかばかりに意識が向いていて、「どうやって」学習するのかが重視されていないのではないかと思います。成長実感の問題も、どうやって学習すればいいのかを考えなければ解決できないでしょう。

Lombardo氏とEichinger氏が作った Lominger 社というリーダーシップ開発で有名な 会社があります。そこが発表した調査結果に「70-20-10 の法則」というものがあります。

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リーダーシップを発揮できるようになった人たちに「どのような出来事が役立ったのか」を調査した結果、70% が「経験」、20% が「薫陶」、10% が「研修」ということがわかったというのです。

「経験」とは、仕事を通じた直接経験であり、事業を立ち上げたことや、改善・改革を進めたことや、人的ネットワークを作ったことなどが考えられます。

「薫陶」とは、他者を観察することや、他者からのアドバイスを受けることであり、優れたリーダーシップを持つ誰かの影響を受けるということです。相手は、上司、社長、取引先、顧客などいろいろです。

「研修」とは、読書などを含むいわゆる一般的な学習や研修です。

リーダーシップに限った調査結果ですが、成長という観点でこれまでの経験を振り返ってみても納得感があるのではないかと思います。

技術者やマネジャーの育成のために様々な研修を行っている組織は多いと思いますが、10% の人にしか役立っていないわけです。育成や教育には個人的な体験をともなう学習機会を提供することがもっとも効果的だということです。