Club-Zコラム第10回

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03

コラム


同時にやるシクミづくりとヒトづくり。
やっと気づいた改革の本質

【第10回】やる気の素(もと)、自律性

株式会社RDPi  代表取締役 石橋 良造

2011.05.26

「やる気」のいろいろ



最近「やる気」が気になりませんか?

震災の影響なのでしょうか、「やる気」が話題となっていることが多いように思います。前回のコラムでは、やる気がでないのは心が疲れてしまったのではないかという話をしました。自分の気持ちにフタをして無理にがんばるのではなく、どういう感情を抱えているのかをしっかりと見つめた上で、好きなことや好きなものに触れる時間を大切にすることをお薦めしました。少しでも気持ちが軽くなって、以前よりもやる気が出ているとうれしいのですが、いかがでしょうか?

さて、この「やる気」という言葉ですが、いろいろな場面で使われていますよね。たとえば:

「今日の仕事、やる気が起きないなぁ」
「久しぶりに気持ちよく晴れてて、やる気が出てきたぞ」
「方針がコロコロ変わるからやる気がなくなったよ」
「今度のプロジェクト、新しいことに挑戦できるからやる気出るよね」

いろいろなやる気がありそうなので、ちょっと整理しておきましょう。

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図22 のように「やる気」には2つあって、どちらのことなのかを区別する必要があります。「テンション」とは一時的な「やる気」です。これからプレゼンをするとか、人を説得するとか、営業で人に会うとか、そういうときに自分の気持ちを高ぶらせて良い結果につなげる、そんな時の「やる気」が「テンション」です。

一方、「モチベーション」とは一時的でなく継続的な「やる気」です。来週までに完成させなくてはいけないレポート、自分が今かかわっているプロジェクト、現在与えられている仕事や役割などに対して前向きに取り組み、高いパフォーマンスを出すための「やる気」です。

さらに、「モチベーション」は「モチベーションに対する取り組み」LinkIconで紹介したように、生存本能にもとづく「モチベーション1.0」、報酬や罰にもとづく「モチベーション2.0」、自分の内面から湧き出る「モチベーション3.0」に分類できます。

今回は「やる気」の中でも「モチベーション」がテーマです。


アメとムチの限界



この「モチベーション」の分類で考えると、多くの企業では外発的動機づけである「モチベーション2.0」をモチベーションと考えていることがわかります。外発的動機づけとは「アメとムチ」方式、信賞必罰にもとづく動機づけのことです。「このプロジェクトが成功したら評価が上がるぞ」「製品開発の失敗が続いたら異動も覚悟しないとダメだ」「特許と発明をあと3件出せば表彰なんだからがんばれ」など、外発的動機づけは話題にもなりやすいですし、実際に多くの組織で行われています。

この外発的動機づけについて、「モチベーションに対する取り組み」で取り上げた書籍「モチベーション3.0」の中に面白い実験が紹介されています。1945年にカール・ドゥンカーという心理学者が考案した「ロウソク問題」とよばれているものを使って、サム・グラックスバーグという科学者がインセンティブ(報酬)の実験をしました。

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図23 を見てください。ローソク問題とは、机の上にあるロウソク、マッチ、画鋲を使って、「テーブルにロウがたれないようにロウソクを壁に取り付けてください」というものです。サム・グラックスバーグは多くの参加者を集めて2つのグループに分け、一方のグループには事前に「問題を解くのに一般的にどのくらいかかるのか平均時間を調べたい」と伝え、もう一方のグループには「解くのが早ければ早いほど高い賞金が出る」と伝えました。1番には 20 ドルの賞金です。昔の話なので十分に高額です。

ロウソク問題を解くのには、だいたい5〜10分くらいかかることが多いのですが、この2つのグループに解いてもらいその平均時間を計算してみると、「3分半」の差が出ました。

なんと、賞金が出るグループの方が3分半も「遅い」のです。
いろいろな年代、いろいろな国でやっても傾向は同じだということです。

仕事や勉強は「アルゴリズム」(段階的手法やルーチンワーク)と「ヒューリスティック」(発見的手法)に分類できます。ロウソク問題は、画鋲が入った箱を単なる箱ではなく、別の使い方ができると考えることができるかどうかがポイントで、ヒューリスティックな考え方を必要とする問題です。クリエイティビティが必要になります。

この実験からわかるのは、報酬は、ヒューリスティックな仕事や問題に対して周囲を見えにくくしてしまい、独創的な解決策を生み出しにくくするということです。クリエイティビティを阻害してしまします。今の私たちの前には、「ヒューリスティック」な取り組みを必要とする問題ばかりです。目の前に答えがあり手順通りにやれば片付くような「アルゴリズム」的な仕事はほとんどありません。誰もが、それぞれの「ロウソク問題」を解かなければならないのです。

それなのに、多くの組織ではアメとムチによってやる気を引き出そうとしているわけです。アメとムチが「ロウソク問題」に対して効果がないばかりか、逆にパフォーマンスを落としてしまうにもかかわらずです。さらに、多くの組織では、与えられた数値を目標として設定し、それを達成したときの報酬をリンクさせていますが、倫理的に問題のある方法をとってでも目標に至る最短ルートを選ぼうとする人が現れることが問題になりがちです。

このように、アメとムチという外発的動機づけには様々な問題を内包しています。図24 にアメとムチの問題をまとめておきます。

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