Club-Zコラム第5回

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03

コラム


同時にやるシクミづくりとヒトづくり。
やっと気づいた改革の本質

【第5回】フロー状態が最高のパフォーマンスをもたらす

株式会社RDPi  代表取締役 石橋 良造

2010.12.16

■フロー状態

テレビゲームに夢中になって気づいたら朝になっていた。面白い本を読んでいるうちに夜が明けてしまった。何か作品を作るのに没頭して食事を取るのも忘れてしまった。こういうまさに寝食を忘れるほど没頭した経験、ありますよね。この心理状態を「フロー状態」と呼びます。「自己の没入感覚をともなう楽しい経験」ということです。ハンガリー出身の心理学者チクセントミハイが提唱した概念です。

フロー状態では、無我夢中になって時間が経つのが早いばかりではなく、「大丈夫かな」「できるかな」というような不安が消え、「大丈夫、うまくやれる」という自分の能力に対する確信にあふれた状態になっています。もっとも、フロー状態にあるときにはそういうことすら考えずにひたすら没頭していますから、はっと我に返ってわかることです。「あー楽しかった」という充実感があるのも特徴のひとつです。

さらに興味深いことに、フロー状態のときには最高のパフォーマンスを発揮するといわれています。優勝などの結果を出したスポーツ選手が、インタビューなどで次のようなことを口にすることがあります。ホームランを打った野球選手が「ピッチャーの投げたボールが止まって見えた」とか、キラーパスを入れたサッカー選手が「自分の後ろも含めてメンバー全員の動きが手に取るようにわかった」とか、優勝したレーサーが「走るべきコースが光って見えた」とか。このような時、選手はフロー状態になっており、それが最高のパフォーマンスに結びついているのです。


■心の状態を作っている要素

フロー状態とは最高のパフォーマンスを発揮して充実感に満たされるという、とてもハッピーな状態なわけですね。ということは、仕事でも、勉強でも、スポーツでも、試験でも、ここぞと言うときにフロー状態になることができれば、気分も良いし結果も出せるということになります。

今回は、このフロー状態になる方法について紹介したいと思います。

その前にまず、覚えておいてほしいことがあります。それは、「自分の心の状態は自分で決めることができる」ということです。これについては前回のコラムで取り上げました。心の状態(意識)は表情や身体の状態によりコントロールでき、いくつかの脳科学実験でも証明されているということをお伝えしました。たとえば、つらいことがあったとしても、笑顔で過ごすことを心がけると脳は勘違い(?)して気持ちが上向きになるということでした。

では、どうやると心の状態を変えることができるのか、です。それにはまず、心の状態が何によって決まっているのか、その要素を知っておく必要があります。いろいろな分類方法がありますが、ここでは、「身体(からだ)」「言葉(ことば)」「意識(いしき)」の3つとしたいと思います。言葉、表情、態度、思考というような分類もありますが中身は同じです。

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この身体、言葉、意識の3つを自分でコントロールすることができれば、心の状態をコントロールすることができます。ぞれぞれはもう少し具体的な説明を 図14 に載せておきます。

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■フロー状態になるための手順

では、実際にフロー状態になるための手順です。

準備:フロー状態になることを確信する

まずはその気になることが大切です。どんなに些細な経験だとしても、フローな気分になったことはあるはずです。自分の心は自分で決めることができるのです。フロー状態になることができると自分に言い聞かせます。

ステップ1:フロー状態、もしくは、それに近い場面をありありと再現する

先ほど説明したような、寝食を忘れて夢中になった出来事を思い出します。フロー状態と思えなくてもそれに近い状態で大丈夫です。そして、その時の「身体」「言葉」「意識」を思い出します。まず「身体」ですが、次のようなことです。

  • 立っていたのか、座っていたのか
  • 動いていたのか、じっとしていたのか
  • 笑っていたのか、落ち着いた顔をしていたのか
  • テンションが高くて呼吸は早かったのか、落ち着いてゆっくりした呼吸だったのか

など、その時の姿勢、表情、呼吸、身振りなどいろいろな身体の状態を思いだし、実際にやってみて再現します。身体を動かすことが、脳への強い影響を持つことを、皆さんはもうわかっていますよね。億劫がらずにやってみましょう。

次に「言葉」。その時に、

  • どんなことを考えていたのか
  • 何か口にしていた言葉があるか
  • 頭の中で繰り返していた言葉はあるか

など、これもその時を思い出して実際にやってみます。何か声を出していたなら声にします。

さらに「意識」です。その時見えていたもの、聞こえていたもの、感じていたものを再現します。

  • 見えているものは外の風景なのか、部屋の中なのか
  • 見えているものの大きさ、色、距離などはどんなだったのか
  • はっきり見えていたのか、ぼんやりしていたのか
  • 聞こえていたのは言葉なのか、音なのか
  • 音量、音の高低、テンポ、音色などはどんなだったのか
  • どこから聞こえてきていたのか
  • はっきりとクリアに聞こえていたのか、ノイズが混じっていたのか
  • 肌で感じていたものがあるのか
  • 手で触っていたのか
  • 重さ、温度、湿り具合などはどんなだったのか
  • どんな感じだったのか

実際にその場、その時に戻り、全身、全感覚を使って再現します。

ステップ2:身体、言葉、意識を変化させ、感覚を倍増させる

再現している状態の感覚をもっと鮮明で強いものにします。そのために、身体、言葉、意識を細かく変えてみます。映画の編集室でその場面を再現させて、絵や音をいじって調整し、より鮮明にしているような感じです。その場面に戻った状態で、次のようなことを試してみます。

自分自身や自分が見えているものを大きくしたり小さくしたり、明るくしたり暗くしたり、鮮明にしたりぼやけさせたりします。色を変えてもいいかもしれません。

聞こえている声や音を大きくしたり小さくしたり、音を高くしたり低くしたり、テンポを速くしたり遅くしたり、クリアにしたりぼやけさせたり、音色をソフトにしたり堅くしたりします。音の位置を変えるのもいいかもしれません。

重さを変えたり、温度を変えたり、手触りを変えたり、匂いを変えたり、味を変えたり、緊張させたりリラックスさせたり、強くしたり弱くしたり、速度を速めたり遅めたりしてみます。

こんな感じで、視覚、聴覚、体感覚の具体的な一つひとつを細かく変化させます。このとき、点数付けするとわかりやすくなります。再現しようとしているその場面を 10 点として、ステップ1で再現できた状態を点数付けし、視覚、聴覚、体感覚をいろいろと変化させるたびに何点になったのかを確かめます。何を調整すると高い点数になるのかがわかると思います。最も高い点数の状態をフロー状態と考えていいでしょう。

column_20101216_3.JPGステップ3:その状態を呼び出すサインを決める

ステップ2で最高の点数になった時に特定の刺激と関係づけを行い、その刺激でいつでもフロー状態を呼び起こすことができるようにします。この行為をアンカリングと言います。特定の刺激とは、写真などの特定のものを見るとか、特定の言葉や声を出すとか、身体のどこかをたたくなどの特定の動きなどです。普段は使わない刺激にしないといけません。この刺激によりステップ2で作ったフロー状態にしおりやラベルのようなサインをつけることができるわけです。

このサインをつければ、いつでも必要なときにこのサインを実行することでフロー状態を再現できるようになります。



■試すことが大切

どうでしょうか、やってみましたか? ちょっと難しいかもしれませんが、できなくても気にすることはありません。これまでの経験や性格などにより個人差が大きいですから。ただ、納得いくレベルでなくても良いので、何度かチャレンジしてみてほしいと思います。自分の心の変化に気づくはずです。身体、言葉、意識で自分の心をコントロールすることができることを実感できるでしょう。

フロー状態を再現できるようになれば、最高のパフォーマンスを発揮したい場面でフロー状態を再現することができるようになり、自分の持っている力を十分に出し切り、充実感に浸ることができるようになります。一流のスポーツ選手はそういうことをやっています。そこまで行かなくても、大切なときにフロー的な状態になることができればいいですよね。繰り返してやっていると、少しずつ近づくことができると思います。手助けが必要なときはご連絡ください。

さて、今回はこれで終わりです。フロー状態に関してはもうひとつのテーマである、日常生活をできるだけフロー状態で過ごす技術についても紹介したいと思っています。次回以降をお楽しみに。







column_20100930_3.JPG●執筆者プロフィール  石橋 良造
日本ヒューレット・パッカード (HP) に入社し、R&D 部門で半導体計測システムの開発に従事した後、開発プロセス改革プロジェクトに参加。ここで、HP 全社を巻き込んだ PLM システムの開発や、石川賞を受賞した製品開発の仕組み作りを行い、その経験をもとに 80 社以上に対して開発プロセス革新やプロジェクト管理のコンサルティングを実施。独立して株式会社 RDPi を設立した後は、より良い改革のためには個人の意識改革も必要、と、北京オリンピックで石井慧を金メダルに導いたピークパフォーマンスのコーチ養成コースを修了し、個人のやる気やモチベーションを引き出す技術の開発と、開発プロセスやプロジェクト管理の仕組み改革との融合を続けています。

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