Club-Zコラム第1回

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03

コラム


同時にやるシクミづくりとヒトづくり。
やっと気づいた改革の本質

【第1回】見過ごしていませんか? 開発現場における本当のリスク

株式会社RDPi  代表取締役 石橋 良造


2010.08.26

とどまることのないグローバル化の波。技術の現場は常に新しい変化への対応を迫られています。新しい技術や部品への対応ももちろんのこと、人事、給与、就業、研修などの各種制度、組織やプロジェクトの体制、与えられたポジションにおける役割、評価基準や評価項目など、技術者を取り巻く環境はグローバル化に合わせて激しく変わっており、この状況は今後も変わらないでしょう。

このような様々な変化に対応すべく、様々な仕組みが導入されているわけですが、現場の一人ひとりのことを考えず、画一的で一方的な導入となっていることが多くなっていると感じます。あちらこちらから、現場の空気が重く、やる気のないものになったという声を聞きます。

しかし、現場の一人ひとりがやる気になって、新しい仕組みの導入と運用に取り組まなければ成果が出ることは期待できないと、誰もがわかっているはずです。できない原因は様々ですが、原因の一つは、一人ひとりと向き合うための技術を十分には身につけていないことだと思います。

この連載では、現場の一人ひとりのやる気を引き出し、組織として仕組み改善の成果を最大にするための技術について紹介していきたいと思います。

労災に見るメンタルヘルス問題の現状

連載のはじめから暗い話で恐縮ですが、厚生労働省は毎年、労災補償状況のレポートを出しており、この中に精神障害関連の労災補償状況についてまとめているセクションがあります。これを見ると、製造業における職場環境の改善が急務であることを実感します。このレポートで扱っている精神障害というのは極端な内容かもしれませんが、このようなメンバーが出る可能性がないと言い切れる職場は少ないのではないかと思います。最新の平成 21 年度レポートをもとにその内容を紹介したいと思いますが、他人事と考えないでいただけると幸いです。

この報告では、労災補償の請求件数、決定件数、支給決定件数という3つの数字を使っています。決定件数というのは、業務上なのか業務外なのかの決定を行った件数で、支給決定件数はその中でも業務上として認定された件数です。今回はこの2つの数字ではなく、請求件数というメンタルヘルスの問題を抱えていると申請した数値に注目します。請求件数は申請者の意志が最も反映されている数字であり、実際の職場状況に近いと思われるからです。

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まず注目すべきは、図1に示す請求件数の推移です。このグラフを見てわかるように、平成17年度から最新データの平成21年度まで増加傾向にあり、職場でのメンタル問題は年々悪化していることがわかります。近年、職場におけるメンタルヘルスの重要性が高まり、それなりの対応は進んでいるように思いますが、問題はより大きくなっているわけです。必要な人に必要な対策が届いていないということでしょう。


危機的な製造業におけるメンタルヘルス問題

次に、請求件数について業種別の構成比について見てみると(図2参照のこと)、その他を除くと製造業が最も高い割合を占めていることに驚きます。実は、平成20年度も同じで、製造業は全体の 18% を占めています。製造業と近い情報通信業も含めると全体の 1/4 にもなるのです。

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ここまで見ただけでも、メンタルヘルス問題の認識は高まっているものの、状況は年々悪化していること、そして、最も多くのメンタルヘルス問題を生じているのが日本を支えている製造業であることがわかります。製造業にかかわっている身としては、決して見過ごすことができない問題です。

日本のものづくりが危ない、ものづくりを見直そう、ものづくりへの原点回帰など、製造業復権のかけ声は高まるばかりですが、現場で働く技術者個人への配慮は置き去りにされているのではないかという疑念を持たざるを得ません。少なくとも、組織としての改善や改革は進んでいても(進んだように見えていても)、現場で働く人々に対する業務環境や職場環境の改善は進んでいないということではないかと思います。

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今の技術者たちは、図3に示すような、内外の様々な仕組みや変化に対応することが期待されています。強制されているといった方がいいかもしれません。そのため、技術が好き、ものづくりが好き、という技術者の基本的な資質だけでは、今の技術者は勤まらない。それは今に生きる以上仕方のないことですが、ただ、技術者がこのような環境に適合できるように、職場レベル、あるいは、プロジェクトレベルで効果的な支援をしているわけでもなく、従来の OJT や集合教育レベルでしかトレーニングもやっていないという現状は放っておくことはできません。基本的に技術者個人の能力や力量に頼っているという姿勢が、メンタル問題を減らせない原因になっているのだと思います。