アナログ回路

印刷用表示 | テキストサイズ 小 | 中 | 大 |


clubZ_info_renewal.jpg

更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑アナログ&ミックスド・シグナル回路の設計と
 基板レイアウトで知っておくべき基礎技術

9. グラウンドと信号配線のパターン・レイアウトを最適化する(3)

アナログ・デバイセズ株式会社 石井 聡

2011.04.21

9-2 マルチカード・システムでのアナログ&ミックスド・シグナル回路で注意すべき信号配線レイアウト

マルチカードで高性能ミックスド・シグナル・システムを実現するうえで重要なことは、グラウンド・レイアウトだけではありません。システム全体の性能を決定する上では、カード基板上でのさまざまなサブ・ブロックのレイアウトと信号配線レイアウトが、最重要なことがらになります。
レイアウトに注意を払い、さまざまな信号同士が互いに干渉しないようにすれば、間違いなくノイズを最小限に抑えることができます。まずは高レベルのアナログ信号と低レベルのアナログ信号を分離し、さらにどちらもデジタル信号から離して配置するところから始めてみてください。


■サンプリング・クロックはアナログ/デジタルの両方から離す
AD変換/DA変換システムでは、サンプリング・クロック(本来これはデジタル信号ですが)は「アナログ信号と同じくらい」ノイズに対して敏感なものです。クロック・ジッタが変換精度に大きく影響を与えるからです。
しかしこのクロック信号自体も、デジタル信号と同じようにノイズを発生させ、他に影響を与えやすいため、アナログ・システムからもデジタル・システムからも分離してレイアウトする必要があります。
とくにマルチカード・システムではマザー・ボード上(つまり複数のカード基板間)をこのクロック信号が渡り歩くようになる場合があるので、レイアウトはさらにややこしくなります。
一番手っ取りばやい方法としては、カード基板前面にコネクタを用意し、ここでカード基板間を同軸ケーブルで結線することです。なおコモン・モードの影響を避けるために、トランス(バラン)をつかってDC分離することが良いでしょう。


■グラウンド・プレーンをシールドとして活用した良好なレイアウトの例
重要な信号が配線されているところで、グラウンド・プレーンをシールドがわりに使えることがあります。
図9-3にボード基板を使ったミックスド・シグナル・システムにおける良いレイアウト例を示します。この例では重要なサブ・ブロック同士はすべて相互に分離されており、信号経路はできるだけ短くしてあります。さらにこの回路間にグラウンド・プレーンをシールドがわりとして用いれば、信号間を分離することが可能になります。
現実のケースではこれほどレイアウトが整然としていることは難しいですが、それでも実際のレイアウトでこの原則は有効ですので、是非活用してください。
ここでのポイントを図9-4にまとめます。

ana_20110421_3.jpg

図9-3 ボード基板上のミックスド・シグナル・システムの良いレイアウト例



ana_20110421_4.jpg

図9-4 注意すべき信号配線レイアウト




■バックプレーン(マザー・ボード)と接続する基板コネクタの考え方
信号パターンと電源/グラウンド・パターンを基板コネクタ付近でレイアウトする際に、注意しなければならない大切なポイントがあります。
基板コネクタ付近では、すべての信号パターンを並列にレイアウトしたり、配線しなければならない個所が、複数個所できてしまうことがあります。このような場合、信号同士が干渉しあって、とくにアナログ信号にノイズが生じることがあります。
この対策として、グラウンド・ピン(パターン)を複数の信号ライン間に挿入するようにレイアウトする方法があります。こうすることで信号間が分離でき、結合を減らせるので良好です。
この部分での電源/グラウンド・パターンのレイアウトについては、上記の「複数のグラウンド・ピンを用いるアイディア」には別の理由もあります。ボード基板と共通バックプレーン(マザー・ボード)間の接合部でグラウンド・インピーダンスを低く抑えられるからです。
ボード基板がまだ新品のときは、基板コネクタのピン1本の接触抵抗はじゅうぶん低い値(10mΩ程度)になっています。しかしボード基板が古くなると、接触抵抗が高くなってきて、ボード基板の動作性能が低下することもありえます。
したがってできるだけ余分に、基板コネクタのピンをグラウンドに割り振り、多数のグラウンド接続が得られるようにすることは、十分価値があります。めやすとすれば、基板コネクタ上の全ピン数のだいたい20~30%をグラウンド・ピンにしてください。
同様な理由で電源接続に対しても複数のピンを割り振ることが必要ですが、グラウンド・ピンほどの数は必要ありません(デカップリング・コンデンサでデカップリングされるため)。
ここでのポイントを図9-5にまとめます。

ana_20110421_5.jpg

図9-5 バックプレーン(マザー・ボード)と接続する基板コネクタの考え方



9-3 超高性能ミックスド・シグナルをマルチカードで実現するポイント

■最良の解決方法は大事な信号をボード間でまたがせない
現代の高性能ミックスド・シグナル・マルチカード・システムでは、カード基板間でのシグナル・インテグリティを目的の性能レベルまで持っていくことはきわめて難しく、場合によっては不可能なこともあります。
図9-6のような差動(平衡)伝送方式を利用するのもひとつの手ではあります。しかし信号帯域幅が直流まで及ぶ場合には、グラウンド基準電位の信号を受信側で復元することが難しく、いっぽう高域では、CMRRやアンプの周波数帯域などの問題が生じてきます。そのため、きわめて高性能な計装アンプが必要なことが実際です。
これらの問題を解決する最良な(ほとんど唯一とも言える)方法は、システムの分割設計の際に(上流設計時点で)、最高の信号品質が要求される信号は「ボード間をまたいで伝送させない」ことです。これらの点をまとめて図9-7に示します。

ana_20110421_6.jpg

図9-6 差動(平衡)伝送におけるグラウンドで生じる電位誤差を抑える



ana_20110421_8.jpg

図9-7 超高性能ミックスド・シグナルをマルチカードで実現するためには



9-4 まとめ

3回にわけて、グラウンド設計と信号配線のレイアウトの最適化について説明してきました。いずれにしても、如何に複雑なシステムであっても、その設計を成功させるためには、やみくもに(良く聞く「ノウハウ」に固執して)レイアウトを行うのではなく、「物理的原理」つまり「プリント基板上の物理現象」の視点に立って、設計やレイアウトをおこなっていくことが大切なのです。





ana_20100930_11.jpg
●執筆者プロフィール
石井 聡
1985年第1級無線技術士合格。1986年東京農工大学工学部電気工学科卒業、同年双葉電子工業株式会社入社。
1994年技術士(電気・電子部門)合格。2002年横浜国立大学大学院博士課程後期(電子情報工学専攻・社会人特別選抜)修了。博士(工学)
2009年アナログ・デバイセズ株式会社入社、現在コアマーケット統括部マネージャ。新規ビジネス創生、セミナ・トレーニング、技術サポートなど多岐な業務に従事。

【今回の記事はいかがでしたか?】

大変参考になった
参考になった
あまり参考にならなかった
参考にならなかった

今回の記事について詳細なご説明をご希望の方は、Club-Z編集局(clubZ_info@zuken.co.jp)までご連絡下さい。