☑アナログ&ミックスド・シグナル回路の設計と
基板レイアウトで知っておくべき基礎技術
6. プリント基板上で長さがある導体すべてはインダクタと考える【インダクタンス】
アナログ・デバイセズ株式会社 石井 聡
2011.01.20
6-3 コンデンサと浮遊インダクタンスで生じる共振現象「リンギング」
直列または並列にコンデンサとインダクタを接続すると、共振回路が形成されます。この回路は狭い周波数範囲で急激にインピーダンスが変化します(変化の急峻さは共振回路のQ値に依存します)。
Q値は狭帯域回路の周波数特性を定義するために広く用いられていますが、Q値が大きいと問題を引き起こすこともあります。Q値については以降でより詳しく説明します。
■浮遊インダクタンスと容量でリンギングが生じる
基板上のパターンによる浮遊インダクタンスと容量(パターンで生じる浮遊容量でも実際のコンデンサでも)で共振回路が形成される場合、回路内の信号によってこの共振回路が励起され、共振回路の共振周波数でリンギングが起きることがあります。
その例を図6-8に示します。この図6-8(a)の例では誘導性の電源ラインのパターンとデカップリング・コンデンサで共振回路が形成され、ICに流れるパルス電流によって共振する可能性があります。
図6-8 基板上のパターンと容量とで共振回路が形成される
■Q値を低減させてリンギングを避ける
この影響を最小限に抑えるには、「インダクタンスのQ値」を小さくします。一番簡単な方法としては、図6-8(b)のように小さい抵抗を、インダクタンスとなる電源パターン上のIC近くに挿入することです。
6-4 さらに複雑なインダクタの寄生効果
インダクタンスは電子部品のうちのひとつですが、抵抗やコンデンサに比べると、高精度なインダクタはあまり多くありません。この理由は、抵抗やコンデンサに比べてインダクタの製造が難しく、安定性が乏しく、機械的堅牢性も劣っているからです。インダクタンスがnHから数十ないし数百μHの、安定した高精度なインダクタであれば比較的簡単に製造できますが、もっと大きい値のインダクタになると安定にすることが難しく、大型になる傾向があります。
■高精度インダクタを使うことはほとんどない
このようなことから予想できると思いますが、一般論として回路上にできるだけ高精度なインダクタを使用しないように設計する必要があります。高周波・狭帯域用途の同調・共振回路以外の高精度アナログ回路では、安定した高精度インダクタを使うことはほとんどありません。
■電源系では使わざるを得ないが精度は要求されない
もちろん電源ラインフィルタやスイッチング電源など、高い精度があまり要求されない用途では、インダクタが広く使われています。このような用途で使用するインダクタにおける重要な特性は、電流許容特性、電流飽和特性、そしてQ値です。
■インダクタンスはコアがあると磁気飽和が生じる
空芯巻線インダクタのインダクタンスは、インダクタを流れる電流量で変化しません。しかしコアが磁性材料(磁性合金またはフェライト)の場合、大電流になるとコアが磁気飽和し始めるため、インダクタンスが非線形になります。
このような磁気飽和は、インダクタを使った回路の効率を低下させ、ノイズや高調波を増やす可能性があります。
■どんなインダクタでも共振周波数を持っている
先の説明のように、インダクタとコンデンサが組み合わされることで、共振回路が形成されます。図6-9のようにどんなインダクタであっても、いくらか浮遊容量があるため、共振周波数を持っています。これは通常、データシートに記載されています。
高精度インダクタとして使用する場合は、インダクタの共振周波数を十分に下回る周波数で使用することが大切な基本です。
図6-9 どんなインダクタでもいくらか浮遊容量があるため共振周波数を持つ
6-5 高周波で大切になってくるQ値(Quality Factor)
■Q値はインダクタの性能
Q値つまり「Quality Factor」はインピーダンスのリアクタンス成分とその抵抗成分との比で、以下の式で表されます。
特に高い周波数の場合にQ値が大切になります。ほとんどのインダクタの場合、そのDC抵抗値からインダクタのQ値を計算できません。表皮効果(およびインダクタに磁心がある場合は鉄損)があるため、高い周波数におけるインダクタのQ値はDC抵抗値から予測される値よりも小さくなります。
■Q値は共振回路の特性でもある
またQ値は共振回路の特性でもあります。共振回路のQ値は共振周波数を中心とする-3dB帯域幅の大きさを示しています。
一般にコンデンサのQ値は十分に高いため、実際ほとんどの用途ではQ値は考慮しなくてかまいません。インダクタのQ値のほうが支配的になります(抵抗を追加して故意に低くする場合を除きます)。
■セラミック共振器・水晶発振器のQ値はとても高い
LC共振回路ではQ値が100(3dB帯域幅が1%)を超えることはめったにありませんが、セラミック共振器のQ値は数千、水晶発振器のQ値は数万にもなることがあります。
6-6 まとめ
インダクタにも普段は気がつかないようないろいろな問題点が潜んでいます。またプリント基板のパターンもインダクタンスになります。コンデンサよりも問題として厄介かもしれません。とはいえそれぞれの現象のポイントをよく理解して、適材適所で用いる、適切に部品・パターンをレイアウトすることを心がけてください。
●執筆者プロフィール
石井 聡
1985年第1級無線技術士合格。1986年東京農工大学工学部電気工学科卒業、同年双葉電子工業株式会社入社。
1994年技術士(電気・電子部門)合格。2002年横浜国立大学大学院博士課程後期(電子情報工学専攻・社会人特別選抜)修了。博士(工学)
2009年アナログ・デバイセズ株式会社入社、現在コアマーケット統括部マネージャ。新規ビジネス創生、セミナ・トレーニング、技術サポートなど多岐な業務に従事。