アナログ回路

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑アナログ&ミックスド・シグナル回路の設計と
 基板レイアウトで知っておくべき基礎技術

5. コンデンサ素子に潜む寄生効果を熟知しておく【コンデンサの寄生成分・効果】

アナログ・デバイセズ株式会社 石井 聡

2010.12.16

5-4 コンデンサの寄生インダクタンスには十分に注意

高精度アナログ回路で使用するICは、たとえ回路そのものがDCまたは低周波で動作するものであっても、IC内部のトランジスタのトランジション周波数(Ft)が数百MHz、場合によっては数GHzのものが使われています。したがってこのような回路、ICの電源端子は、高周波領域でも正しくデカップリングする必要があります。

■高周波のデカップリング用にフィルム・コンデンサは使えない
フィルム・コンデンサの一般的な構造は、図5-3のように2枚の金属箔を複数枚のプラスチックまたは紙の誘電体によって分離し、ロール状や積層状にしたものです。
ロール状構造のものは、結構な自己インダクタンスを持ちます。数MHzを超える周波数では、コンデンサというよりインダクタンスになってしまいます。
したがって高周波デカップリング用に、ここまでの電解コンデンサや、フィルム・コンデンサを使用することはお勧めできません。

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図5-3 フィルム・コンデンサの一般的な構造

■高周波のデカップリング用には積層セラミック・コンデンサ
積層セラミック・コンデンサは直列抵抗と直列インダクタンスがきわめて低いものです。導体とセラミック誘電体で構成される多層サンドイッチ構造となっており、すべての導体は直列に接続されるのではなく、端子に並列に接続されています。
このコンデンサは高周波デカップリングに最適です。しかし積層セラミック・コンデンサは、振動による圧電雑音を生じることがあり、またものによっては比較的高いQ値のために自己共振してしまうこともあります。
現在ではプリント基板上でのデカップリング用には、表面実装チップ部品の積層セラミック・コンデンサが多く用いられています。さらに良好なデカップリング特性をもつ特殊なコンデンサも専業メーカから販売されています。

■容量値の異なるコンデンサを並列接続して広帯域で十分にデカップリング
アナログ回路を高い周波数と低い周波数の両方で、十分にデカップリングするための最善の方法は、大容量の電解コンデンサやタンタル・コンデンサと、小容量の積層セラミック・コンデンサとを並列接続で使用することです。この組み合わせで、低い周波数からVHFの周波数帯までもの広帯域にわたって容量性が維持できます。
各ICと大容量のコンデンサ間が、10cm程度の比較的広いパターンで接続されていれば、大容量のコンデンサをそれぞれのICにレイアウトする必要はありません。1つの大容量のコンデンサで複数のICをカバーさせても問題ありません。
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図5-4 容量値の異なるコンデンサを並列接続する

■適切なコンデンサを適切な位置にレイアウトしよう
インダクタンスを生じないコンデンサをいくら慎重に選んだとしても、適切に部品をレイアウトしなければ、あまり意味がありません。短いパターンでもかなりのインダクタンスがあるため、デカップリングする点のできるだけ近くに、短く太いパターンで高周波用のデカップリング・コンデンサ(セラミック・コンデンサ)をレイアウトする必要があります。
理想的には表面実装チップ部品の高周波用デカップリング・コンデンサを用いて、リード線によるインダクタンスを排除すべきですが、リード線が1.5mm以下であればリードつきコンデンサも利用できます。
また、高周波信号のデカップリング電流をどの経路に流すべきかということ、なぜ高周波デカップリングが特定の箇所で特に重要になるかを、プリント基板をレイアウトする際に理解しておくことも重要です。これについてはアナログ・デバイセズのアプリケーション・ノート(たとえばAN-342 高速性と高精度を同時に実現するアナログ信号処理LinkIcon)でも詳しく論じられています。

■寄生インダクタンスによって低周波アナログ回路でも動作が不安定になることがある
アナログ回路が高周波で不安定になる問題は、意外によく起きます。数百MHzの寄生発振が生じることにより、低周波・高精度回路であっても重大な誤動作が生じます。しかしオシロスコープではこの問題を発見できないことがあります。
オシロスコープのプローブが回路に接続されていると、発振が減衰してしまい、接続されていないときしか現象が再現しないことがあります。これはトラブルシュートにおいて見つけにくい重要なポイントです。
はっきりした原因がわからず誤動作するアナログ回路には、広帯域のスペクトラム・アナライザ(たとえば1~1500MHz)に低容量のFETプローブを接続し、寄生発振が発生していないかを調べることをお勧めします。このテストにより、いま回路で生じている誤動作が、内在のものなのか、外来の強力な高周波電磁界に起因するものなのかも判断できます。

5-5 「コンデンサで吸い取られる?」…誘電体吸収

積層セラミック・コンデンサは、高周波デカップリング用途には良好ですが、誘電体吸収が大きいため、サンプル&ホールド回路のホールド・コンデンサには適切ではありません。
図5-5のように、急激に放電させて無電荷状態になった積層セラミック・コンデンサは、誘電体吸収によって蓄積された電荷の一部が回復してきます。回復した電荷量は過去に蓄積された電荷量の関数になります。これはまるで「電荷メモリ」と言えるでしょう。
このためサンプル&ホールド回路のホールド・コンデンサに誘電体吸収がある場合、回路に誤差が生じてしまいます。
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図5-5 積層セラミック・コンデンサの誘電体吸収により発生する電荷の回復



5-6 まとめ

コンデンサに普段は気がつかないようないろいろな問題点が潜んでいます。なぜ複数の種類のコンデンサがあるかは、それぞれの利点・欠点があるからです。それぞれの特徴をよく理解して、適材適所で用いる、レイアウトすることを心がけてください。







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●執筆者プロフィール
石井 聡
1985年第1級無線技術士合格。1986年東京農工大学工学部電気工学科卒業、同年双葉電子工業株式会社入社。
1994年技術士(電気・電子部門)合格。2002年横浜国立大学大学院博士課程後期(電子情報工学専攻・社会人特別選抜)修了。博士(工学)
2009年アナログ・デバイセズ株式会社入社、現在コアマーケット統括部マネージャ。新規ビジネス創生、セミナ・トレーニング、技術サポートなど多岐な業務に従事。

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