第7回 DC/DCコンバータってなに?(その3)

※旧リコー電子デバイス株式会社は、2022年1月1日より新社名 日清紡マイクロデバイス株式会社となりました。

皆さんこんにちは、日清紡マイクロデバイスの講師Sです。さて前回は降圧DC/DCコンバータの動作として、その構成要素であるコイルのエネルギー蓄積と放出という特徴を利用して実現できていることを説明しました。今回はコイルのエネルギー蓄積、放出という機能を使って、電源、コイル、スイッチの接続の仕方を変えるだけで入力電圧より高い電圧を作り出す昇圧動作や、入力電圧と反対の極性を持つ電圧を作り出す反転動作も実現できることを説明します。また時比率制御以外の制御方式についても説明したいと思います。


 

コイル電流遮断によって発生する電圧

図1に示す簡単な回路を考えてみます。コイルに I = Vin / R の定常電流が流れておりコイルの両端?点、?点の電圧がVinの場合を初期状態として考えます。この状態でコイルと抵抗R間のスイッチSW2をOFFするとコイルの?点の電圧はどうなるでしょうか。SW2をOFFしてもコイルはI = Vin / R の電流を流し続けようとするので?点の電圧はVin電圧から急峻に上昇してプラス側のサージ電圧を発生させることになります。この動作を制御して入力電圧より高い安定した電圧を生成するのが昇圧DC/DCコンバータです。初期状態からコイルと電源Vin間のスイッチSW1をOFFするとコイルの?点の電圧はどうなるでしょうか。SW1をOFFしてもコイルは I = Vin / R の電流を流し続けようとするので?点の電圧はVin電圧から急峻に下降して0V以下のマイナスのサージ電圧を発生させることになります。この動作を制御して0Vより低い安定した電圧を生成するのが反転DC/DCコンバータです。
 

コイル電流遮断によるサージ電圧の発生

図1.コイル電流遮断によるサージ電圧の発生

 
 

昇圧DC/DCコンバータ

昇圧DC/DCコンバータは入力電源:Vin、コイル:L、SW1、SW2、出力コンデンサ:Coutを図2に示すような構成に接続します。図2にしたがって動作原理を説明します。
Step1:SW1をONすると電源Vinからコイルを介してGNDへの電流が序々に増加します。このときコイルに電流が流れることで、コイルにエネルギーが蓄積されます。
Step2:スイッチがSW1からSW2に切換わってもコイルは電流を流しつづけようとします。Step2でコイルは蓄積したエネルギーを電流として放出していることになります。
この電流によって出力コンデンサが充電され出力電圧は上昇します。Step1とStep2を交互に切換えることで出力電圧Voutが上昇していくことがイメージできます。

 
昇圧DC/DCコンバータの動作原理

図2.昇圧DC/DCコンバータの動作原理

 
 
では出力電圧Voutはどこまで上昇するのでしょうか?
それを説明しているのが図3です。

昇圧DC/DCコンバータの動作解析

図3.昇圧DC/DCコンバータの動作解析

 
 
インダクタンス:L のコイル両端に電圧(電位差)Vを時間:Tの期間印加するとコイル電流変化量:ΔIは
ΔI = 1 / L × V × T
で表されます。
Step1:Ton期間SW1がON。Tonの期間にコイルの両端に印加される電圧はVin。コイル電流の増加量ΔIonは
ΔIon = 1 / L × Vin × Ton   ・・・・・・・・①
Step2:Toff期間SW2がON。Toffの期間にコイルの両端に印加される電圧はVout-Vin。コイル電流の減少量ΔIoffは
ΔIoff = 1 / L ×( Vout ? Vin )× Ton   ・・・・・・・・②
コイル電流の増加量ΔIonと減少量Ioffが等しくなったところで、出力電圧の
上昇がとまりますので、 ① = ② として Voutを求めると
Vout = ( Ton + Toff )/ Toff × Vin
が導き出されます。

以上のように、図2に示す構成にしてSWを一定の時比率で切換えることでVinより高い電圧が生成され、その電圧が時比率できまるという昇圧DC/DCコンバータの動作を理解していただけたでしょうか。

 

●コンデンサによる出力電圧の平滑化
降圧DC/DCコンバータではTon時間、Toff時間ともに出力負荷に電流を供給していましたが、昇圧DC/DCコンバータや反転DC/DCコンバータでは、Ton期間に出力負荷ヘ電流を供給していません。
降圧DC/DCコンバータではコイルとコンデンサでフィルターを構成しており、コイルも「平滑化」の役割を担っていましたが、昇圧DC/DCコンバータではコイルは平滑化には寄与しておらず、平滑化の役割はコンデンサのみが担っています。したがって比較的大きな容量のコンデンサが必要になります。コイルの役割は「エネルギーの蓄積と放出」のみとなります。

 

●昇圧DC/DCコンバータの出力電流
TonからToff期間にわたってVinが供給する平均電流をIin、Toff期間にVoutが出力する電流をIoutとすると、
Vin × Iin = Vout × Iout
という関係になります。
この式から入力電圧と出力電圧の比、すなわち昇圧比が大きくなると、最大出力電流が低下することが解ります。

※ Vin × Iin は Ton期間 Toff期間にわたって供給していますが、Ton期間にはコイルを介してGNDに電流が流れます。したがってこの期間に消費する電流によってエネルギーが消費すると考えられるかも知れませんが、Ton期間はエネルギーを消費しているわけではありません。この期間は Vin × Iin に相当するエネルギーをコイルに蓄積する期間になります。

 

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反転DC/DCコンバータ

反転DC/DCコンバータは入力電源:Vin、コイル:L、SW1、SW2、出力コンデンサ:Coutを図4に示すような構成に接続します。図4にしたがって動作原理を説明します。
Step1:SW1をONすると電源Vinからコイルを介してGNDへの電流が序々に増加します。このときコイルに電流が流れることでコイルにエネルギーが蓄積されます。
Step2:スイッチがSW1からSW2に切換わってもコイルは電流を流しつづけようとします。Step2でコイルは蓄積したエネルギーを電流として放出していることになります。
この電流によって出力コンデンサが放電され出力電圧は下降します。Step1とStep2を交互に切換えることで出力電圧Voutが 0V 以下に下降してゆくことがイメージできます。

反転DC/DCコンバータの動作原理

図4.反転DC/DCコンバータの動作原理

 
 
では出力電圧Voutはどこまで下降するのでしょうか?
それを説明しているのが図5です。
 
反転DC/DCコンバータの動作解析

図5.反転DC/DCコンバータの動作解析

 
 
昇圧DC/DCコンバータと同様に解析します。
Step1:Ton期間SW1がON。Ton期間にコイルの両端に印加される電圧はVin。コイル電流の増加量ΔIonは
ΔIon = 1 / L × Vin × Ton   ・・・・・・・・③
Step2:Toff期間SW2がON。Toff期間にコイルの両端に印加される電圧は|Vout|。コイル電流の減少量ΔIoffは
ΔIoff = 1 / L × |Vout| × Ton   ・・・・・・・・④
コイル電流の増加量ΔIonと減少量Ioffが等しくなったところで、出力電圧の下降がとまりますので、③ = ④ として Voutを求めることで
|Vout| = Ton / Toff × Vin
が導き出されます。

以上のように、図4に示す構成にしてSWを一定の時比率で切換えることで、0Vより低い電圧が生成され、その電圧が時比率できまるという反転DC/DCコンバータの動作を理解していただけたでしょうか。
 
 
●降圧/昇圧/反転DC/DCコンバータの出力電圧生成イメージ
これまで見てきたように、各DC/DCコンバータ動作が定常状態ではコイル電流の増加量ΔIonと減少量ΔIoffが等しくなり、その結果Ton期間のコイル両端の電圧をVon、Toff期間の電圧をVoffとすると以下の関係が成り立ちます。
Von × Ton = Voff × Toff
この関係から図6のように各DC/DCコンバータの出力電圧生成のイメージ図が出来上がります。この図を使えば出力電圧が容易に推測できます。
・降圧DC/DCコンバータ
(Vin ? Vout ) × Ton で Toff期間の電圧Voutを埋めて平均化するイメージ。
∴ Vout = Vin × Ton / ( Ton + Toff )
・昇圧DC/DCコンバータ
Vin に Vin × Ton / Toff が加算されるイメージ
∴ Vout = Vin × ( Ton + Toff ) / Toff
・反転DC/DCコンバータ
Vin × Ton / Toff 分のマイナス電圧が生成されるイメージ
∴ Vout = – ( Vin × Ton / Toff )

 
降圧/昇圧/反転DC/DCコンバータの出力電圧生成イメージ

図6.降圧/昇圧/反転DC/DCコンバータの出力電圧生成イメージ

 
 

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DC/DCコンバータの制御方式

●PWM制御
これまで説明してきた時比率を制御することで一定の電圧を生成する制御方式はPWM( Pulse Width Modulation:パルス幅変調 )方式と呼ばれる制御方式です。
PWM方式とは周波数が一定でその一周期内のTon時間(パルス幅、これをDutyと呼びます)を制御する方式です。制御回路は出力電圧を監視して設定電圧に対して出力電圧が低下するとDutyを増加させ、設定電圧に対して出力電圧が上昇するとDutyを減少させることで出力電圧を設定電圧に安定化させる制御を行なっています。

 
●電流連続モード
これまで Ton時のコイル電流の増加量と Toff時のコイル電流の減少量が等価という条件で出力電圧を導き出して来ましたが、この条件はコイル電流が連続していることを意味しています。したがって、これまで説明してきた時比率制御で出力電圧が決まるという関係は、コイル電流が連続していることが前提です。コイル電流が連続している状態を電流連続モードと呼びます。
電流連続モードとなるのは負荷電流 Ioutとコイル電流の増減幅(リップル電流)ΔIが
Iout ≧ 1/2 × ΔI
の関係を満たす場合です。
特に Iout = 1/2 × ΔI となる場合を臨界モードと呼びます。
これを表しているのが図7です。

 
●電流不連続モード
負荷電流 Ioutと連続モード時のコイル電流の増減幅(リップル電流)ΔIの関係が
Iout < 1/2 × ΔI
となる場合には、コイル電流の逆流が起こります。
コイル電流の逆流は効率低下の要因となるため SWを OFFして逆流を防止しています。このため
Iout < 1/2 × ΔI
となる場合にはコイル電流が不連続となります。
詳細は省略しますが、図7は電流不連続モードの PWM制御では負荷電流の大きさに応じて Ton幅を調整することで出力電圧を安定化させていることを示しています。 PWM方式は負荷電流によらず常に一定の周波数で常時スイッチングさせており、そのため負荷電流が少なくなる軽負荷の場合、負荷で消費する電力に対して、DC/DCコンバータで消費する電力が無視できなくなり効率が低下することになります。

PWM制御における電流連続モードと不連続モード

図7.PWM制御における電流連続モードと不連続モード

 
 
●VFM/PFM制御
負荷電流が少ない場合でも効率を低下させない方式としてVFM( Variable Frequency Modulation:可変周波数変調)/ PFM( Pulse Frequency Modulation:パルス周波数変調)制御があります。この方式では出力電圧を監視して、出力電圧が規定の電圧を下回った場合にのみスイッチングを行なって出力に電流供給するという制御を行なっています。一回のスイッチングパルスの Ton時間が一定で負荷電流によってスイッチング周期(パルス周期)が変動します。負荷電流が少ない軽負荷の場合にはパルス間隔(周期)が広がり、負荷電流が多くなるに従いパルス間隔(周期)が狭くなります。電圧低下を検出した場合しかスイッチングしないので、軽負荷の場合には高効率を実現できます。これをイメージしたのが図8です。

 
 
VFM/PFM制御における動作波形(イメージ図)

図8.VFM/PFM制御における動作波形(イメージ図)

 
 
効率を含めて図9の左の表にPWM制御とVFM/PFM制御の特徴の比較を示しています。重負荷領域では動作の安定性からPWM方式、軽負荷領域では効率を優先してVFM/PFM方式に切換えるのが、DC/DCコンバータの主流となっています。

 
●PWM制御とVFM/PFM制御の特徴比較

以下に、表に示した特徴について簡単に説明しておきます。

・効率:
PWM制御は負荷によらず常時一定のスイッチング周波数で動作しますので、軽負荷時の効率が低下します。一方VFM/PFM制御は出力電圧が一定レベル以下に低下した場合にのみスイッチング動作しますので、軽負荷時の効率はPWM制御に比べて格段によくなります。この様子を示したのが図9の右側に示した出力電流に対するPWM制御とVFM/PFM制御の効率を比較したグラフです。

 
・消費電流:
(効率と重複しますが、)PWM制御は負荷の大きさによらず常時一定のスイッチング周波数で動作するので消費電流はほぼ一定ですが、VFM/PFM制御は負荷に応じてスイッチング周波数が変化しますので、特に軽負荷の消費電流を小さくできます。

 
・リップル電圧:
不連続モードで比較した場合、PWM制御では負荷電流に見合った Ton時間スイッチングさせて電流供給するので出力のリップル電圧は小さく抑えられます。VFM/PFM制御では Ton時間を一定にしてスイッチング間隔を広げることで効率向上を狙っているため Ton時間を比較的長く設定しており、リップル電圧が大きくなります。

 
・過渡応答:
PWM制御は負荷変動に合わせて Ton時間が変化しますので、Ton時間固定の VFM/PFM制御に比べて過渡応答は良くなります。

 
・ノイズ:
DC/DCコンバータはSWを切換えることで出力電圧を生成していますので、スイッチングノイズが発生します。PWM制御ではスイッチング周波数が一定のためノイズ対策のためのフィルター設計が容易です。一方VFM/PFM制御では負荷に応じてスイッチング周波数が変化するためノイズ対策が難しくなります。

 
 
PWM制御とVFM/PFM制御の比較

図9.PWM制御とVFM/PFM制御の比較

 
 

おわりに

今回はコイルのエネルギー蓄積、放出という機能によって、電源、コイル、スイッチの接続の仕方を変えることで入力電圧より高い電圧を作り出す昇圧DC/DCコンバータや、入力電圧と反対の極性を持つ電圧を作り出す反転DC/DCコンバータが実現できることを説明しました。また制御方式としてPWM制御とVFM/PFM制御についてその特徴を説明しました。

次回は、その他の制御方式について説明し、これまでのまとめを行ないDC/DCコンバータの講座を終わりたいと思います。
 
最後まで読んでいただきありがとうございました。


 


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講師S (日清紡マイクロデバイス株式会社 設計センター 設計技術部)
入社以来長期に渡り、ゲートアレイ・マイコン・メモリ・電源ICなどアナログ・デジタルの各種設計に携わる。その後、複合電源ICのテスト技術も極める~設計・テスティングとその教育のスペシャリスト。毎年入社してくる技術者の卵に対する、聞き手目線の優しい解説と丁寧な指導は社内でも有名。その実績を買われ、現在はシニアエンジニアとして後進の育成や新規技術の相談役として活躍中。
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