基板と熱設計

印刷用表示 | テキストサイズ 小 | 中 | 大 |


clubZ_info_renewal.jpg

| HOME | 熱設計 | 13 | P1 |

更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

13. 構想設計段階から熱設計を導入するには

株式会社ジィーサス

2011.09.29

こんにちは。株式会社ジィーサスの藤田です。
前回は熱設計ツールについて書きましたが、今回は実際に構想設計段階での熱設計を実現するためにはどう進めればいいか? を考えたいと思います。

たとえば、あなたが製品開発のスタート時点で突然上司から「この装置の熱設計をやれ!」と言われたらどうしますか?この記事を毎回読んでいただいているなら、少しは熱設計を理解していただけている(?)と思いますが、具体的に熱設計を行う場合は最初に何をやればいいのか、戸惑うと思います。色々考えた挙句に熱設計参考書の購入稟議書を最初に書いたりするのではないでしょうか?参考書を読むと伝熱の知識は得られますが、具体的な熱設計の進め方が書いてある本は少ないので、今度は熱設計セミナーを申し込むかもしれませんね。そうこうしているうちに数週間はすぐに過ぎてしまい、納期が迫ってきて「やはり一度試作して温度を測って、ダメなら考えよう」となってしまうのではないでしょうか?

確かに現在では簡単な基板は数日でパターン設計~製造までできるし、光造形などでモールド筐体も数日でできてしまうため、試作の時間は短くなっていると思います。しかし、製品を試作するには設計が終わっていることが前提となるため、試作評価で問題が出た場合はどうしても大きな手戻りが発生してしまいます。少し納期に余裕がある場合は部分試作をチョコチョコやることで大失敗を免れることはできるかもしれませんが、部分しか評価していないので最後はどうなるかわからないし、第一コストがかかりすぎると思います。こうなることは分かっていても「最初のひと手間」がかけられずに構想設計段階の熱設計を断念していることが多いのではないでしょうか?

なぜ構想設計段階で熱設計がやりにくいのでしょうか?一つには上記の例のように「具体的に何から始めればいいのかわからない」という場合があると思います。たとえば、今までは消費電力が小さかったとか、製品寸法がそれほど小さくなかったために過去に熱設計をしたことがなかったメーカが、高機能化・小型化を目指して新たな製品ラインナップを計画するような場合は、熱設計文化がない中で熱設計を強要されることになるので、とても苦労すると思います。また、今まで熱対策はしていても熱設計はしていなかったメーカ、具体的には伝統的に「この部品には必ずこのヒートシンクを使う」ということが決まっているメーカも、ディスコンや機能統合などで電気部品の損失が変化した場合に苦労しますね。で、何を最初にやればいいかを知りたくてwebや書籍を調べても、たとえば「筐体の温度上昇計算方法」や「部品の温度計算方法」は書いてあるけれど、最初に何をやるべきか、どのような順序で熱設計すべきなのか、などはほとんど書いていないと思います。

それと最近よく聞くのが「温度上昇を最初に見積もって設計したけど、試作して温度を測ったらかなり低くて過剰な熱設計だった」という話です。たとえば当初の見積もりでは冷却ファンが必要、との方針で設計したが、実測したらファンが不要だった、というような内容です。もっと具体的に書くと「熱設計するために回路設計部門に消費電力を聞いたら100Wと言われたのでファンを付けたが、実測したら65Wでファンがいらなかった」という機構設計者の話とか、「筐体内温度が75℃になると機構設計部門から言われたので85℃部品を選んだが、実測したら55℃以下だったので一般部品でもよかった」という回路設計者の話とかです。

こういう話をする人は「だから熱設計は当てにならないからやってもムダ!」ということで実測主義になっているようです。これ、よく聞く話で私も経験がありますが、互いにマージンを取りすぎて結果的に過剰設計になるというパターンです。でもその一方で「自然空冷でOKという見積もりで設計スタートしたが、試作したらNGで結局筐体も回路も再設計になってしまった」という話も聞きます。過剰設計と再設計、あなたはどちらを選びますか? 両方とも選びたくないですよね? 経済的な観点で考えれば目標コスト内での過剰設計は問題ないし、目標開発費・納期内であれば試作を含む再設計もアリですが、現実にはそんな余裕がないので苦労するのです。

同じ技術課題でこのような問題はないのでしょうか? たとえば強度設計の場合、一般製品の安全率が10や20は当たり前です。携帯電話を落としても壊れないように設計したら、安全率は数百ですよね? これって「普通に使っているときの数百倍のマージンを持って製品設計している」ということです。EMCも同じです。今ではシールドやフィルターは当たり前になっていますが、VCCIが制定された当時はサイトアッテネーションがよくわからなかったこともあり、マージン数十dBということもありました。これは「EMC本試験サイトの測定誤差がわからないからマージンを取っておく」という考え方ですよね。

このように技術課題は目標値に対しマージンを取って設計するのが普通ですが、強度設計は一般にマージンが大きいのと、関与するパラメータが少ないため計算値と実測値の誤差が少ないのに対し、EMCはパラメータが多いために設計予測が困難で、結果的に実測主体になっています。

では熱問題はどうでしょうか?