基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

12. 熱設計ツールについて

株式会社ジィーサス

2011.08.25

こんにちは。株式会社ジィーサスの藤田です。
今まで熱設計の概要を述べてきましたが、実際の熱設計では電卓からシミュレーションツールまで、様々なツールが用いられます。今回はそのツールについて説明していきたいと思います。

私は以前メーカで実装設計を担当する設計者でした。実装設計と言っても基板に部品を搭載する設計だけでなく、寸法を決める設計は何でもやるという部署でした。だから大きなものでは通信設備のフロアレイアウトから小さなものではインピーダンスマッチングを考慮したパターン幅まで、装置でいえば2mを超えるラック装置から(もう死語ですが)ポケベルまで何でも設計しました。

しかし、昔はほとんど熱設計を行った記憶がありません。真剣に熱設計をやったのは車載無線機や屋外装置ぐらいでした。真剣にといっても、今も使われている筐体内温度上昇を求める簡易式を電卓で計算する程度です。当時の製品は一般に消費電力に対して製品が大きかったので、何も考えずに設計試作しても熱問題はほとんどありませんでした。

しかし、時代の流れとともにエレクトロニクス製品は確実に高密度化し、たとえば通信装置用のラックは外形こそ変化しませんが、昔はラック当たりの消費電力が500~600Wだったのが、近年は10KW近くまで大きくなり、通信室全体をエアコンでどうやって冷やそうか?というエコとは真逆の課題に直面したりしています。こうなると電卓で簡易式を使って計算するというレベルでは済まなくなり、シミュレーションを使って大局的な状況把握とチップレベルの詳細な現状把握を同時に行う、などという必要性が出てきます。

また、最近のコンシューマ製品では周囲温度上限に対して許容温度上昇が10℃程度しか確保できない場合も珍しくなく、放熱シートやねじのトルクを調整して各部の熱抵抗を細かく設計する、などという作業も多くなっています。この場合も電卓では太刀打ちできない場合が多く、シミュレーションソフトを使ったり、場合によっては熱回路モデルを自分で細かく抽出してマトリクス計算プログラムで解析する、などということも必要になってきます。(実際の熱設計で一番苦労するのは温度差(ポテンシャル)が小さい時ではないでしょうか?)


このように時代の変化だけでなく、状況の複雑さも多様化しているため、熱設計ツールもそれに合わせて高度化してきたものと考えることができます。th_110825_1.jpg熱計算にツールが必要なもっとも簡単な理由は、装置全体の放熱量は伝導・対流・放射の伝熱三態の放熱量の合計なのと、そのうち対流と放射の熱伝達率に温度が入っているためで、逆に消費電力が与えられたときに温度を計算しようとすると、数値計算が必要になるためです。

たとえば放射熱伝達率は前回記載したように(T14-T24)を因数分解して(T1-T2)を外に出しただけなので、残りの温度計算式(T12+T22) (T1+T2)は放射熱伝達率の中に残っています。対流熱伝達率も同様に、中に温度の項があるため、一般に放熱量は温度の高次式になります。

これを計算するのは電卓でも厳しく、最近はEXCEL等の表計算シートを使って計算するのが最も簡便な方法だと思います。ただ通風孔やファンが付く一般的な製品では、対流熱伝達による放熱量が伝導、放射に比べて大きいため、おおよその温度を知るだけなら対流熱伝達量だけの計算でも傾向がつかめます。これなら電卓だけでも計算できます。しかし最近の製品は前述したように温度ポテンシャルが小さいだけでなく、高密度化して製品内の空間が小さくなっているので、そもそも筐体内温度ってどこの温度なの?という状態なので、逆に簡易計算が使えないことが多くなっています。(たとえば携帯電話の筐体内温度って、どの部分の温度でしょう?)

一般に製品の温度計算は、製品内に使用している部品がその部品の許容温度を超えるかどうかを確認するために行いますが、部品温度計算には部品周囲の温度を知る必要があり、そのために筐体内温度計算が必要です。

筐体内空間が小さくて部品周囲温度が計算できない場合、どうやって部品温度を計算するのでしょうか?この場合は筐体や基板や部品の熱の流れやすさの関係をモデル化する、つまり熱回路網を把握して、その回路網による連立方程式を解いて各部の温度を求めるか、同様に空間を細かく分割して各ブロックのエネルギー収支を計算式にして、同じように連立方程式を解いて各部温度を求める必要があります。

後者が一般のシミュレーションソフトの原理なので、つまりこのようなモデルはシミュレーションソフトを使ったほうが楽に計算できます。ただし、シミュレーションソフトを使ったことがある人はわかると思いますが、いろいろなパラメータを入力する必要があり、ここに正しくない数値を入れれば当然計算結果も正しくないことになります。

たとえばシミュレーションソフトは各構成部材に対し熱伝導率・比熱・密度、放射計算する場合は表面放射率を入力する必要がありますが、PBGAのプラスチックモールドの熱伝導率を正しく入力できるでしょうか?確かエポキシ樹脂だからエポキシ樹脂の熱伝導率を調べればいい、と思うでしょうが、一般に半導体のプラスチックパッケージは熱伝導率を大きくするためにいろいろと混ぜているので、エポキシ樹脂の熱伝導率で計算すると半導体チップ温度は高めに計算されます。安全側に出ればいい、という場合はこれでもいいと思いますが、シミュレーション結果からヒートシンクを付けたけれど、実測したらヒートシンクが不要だった、という結果になりかねません。

また、構想設計段階のように設計が始まったばかりだと、たとえばCPUは決まったが周辺回路が決まらないとか、FPGAを使うことにしたがまだ内部設計できていない、という状況では消費電力が正しく入力できません。この状態でシミュレーションソフトを使うと、やはりモデリングや入力工数に見合った結果が得られなくなります。

最近のシミュレーションソフトは大変良くできているので、正しい値を入れて正しく使えば本当に正しい結果を出すのですが、残念ながら道具であって玉手箱ではないので、買っただけでは正しい答えは得られません。