基板と熱設計

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑基板と熱設計

10. 熱対策の進め方1

株式会社ジィーサス

2011.05.26

こんにちは。株式会社ジィーサスの藤田です。
前回は熱回路の話を書きましたが、熱回路を計算することで各部分の温度を知ることが目的でした。その計算温度がその部分の許容温度以下なら問題ないですが、許容温度を超えている場合は対策を検討する必要があります。

ちょっと具体例で検討してみましょう。たとえば周囲温度の上限が40℃の条件で製品を設計しようとして回路を検討したところ、消費電力予測が10Wだったとします。th_110526_1.jpg他社の類似製品の大きさから、この製品の大きさは幅150㎜×奥行100㎜×高さ40㎜以下にする必要があるとします。これだけの条件があれば製品内の温度上昇が推定できるので、とりあえず通風口なしで計算してみると約38℃だったとします。すると筐体内部の温度は、周囲温度40℃に温度上昇38℃を加えて78℃ということになります。さて、基板に実装する主要部品の使用温度範囲をざっと調べたら温度上限が85℃だったので、このまま設計を進めたとします。しかし、デザインレビューでベテラン設計者から「水晶振動子の温度は調べたか?」と言われて、あわてて調べたら使用温度上限が60℃だった!としたら、あなたならどうしますか?

ここであわててファンを付けるとかケースを大きくするなどの具体策を考える前に、まずは熱的に現状分析をしてみてください。最初に設計条件を明確にしてみましょう。上の文章で決めている設計条件は「周囲温度の上限値」と「筐体寸法」だけです。次に回路設計の結果として「消費電力」と「部品許容温度」が決まったことにしています。もちろん回路設計の条件として「機能仕様」があるはずですが、それは割愛しています。しかし、熱設計から見た場合のスタートである「消費電力」と、ゴールである「許容温度」は回路設計で決まってしまうことに注意してください。さてここで設計条件として登場していないのは「構造条件」です。機構的には大きさだけが決まっていますが、それ以外はフリーです。熱的に見れば通風口は開けられるし、ゴム足などで机等の接触面から離して6面すべて放熱に使えるし、筐体材質も決まっていません。対策はいろいろありそうなので、今度は課題をよく考えてみましょう。

回路設計で選択した部品を調べたら水晶振動子以外は許容温度が85℃だったとします。そこで考えられるのは「許容温度が85℃の水晶振動子を探す」という対策ですが、残念ながらコスト理由でそれが無理だったとします。すると熱的な設計条件は「幅150㎜×奥行100㎜×高さ40㎜以下の筐体で、内部消費電力が10Wの時の温度上昇が60℃-40℃=20℃以下になること」ということになります。熱抵抗を使って表すと「筐体内側と外側の間の合成熱抵抗を20/10=2℃/W以下にする」ということです。これに対し初期検討では温度上昇が38℃と推定されたため、筐体表面からの対流と放射による放熱では38/10=3.8℃/Wであるわけです。したがって熱抵抗をあと1.8℃/W下げなければなりません。


課題が整理できたところで、次は一般的な熱対策の方向性を考えてみます。前回は伝熱三態のそれぞれの熱抵抗を説明しましたが、熱抵抗を小さくするには熱抵抗を構成する変数のうち、分母側を大きくして分子側を小さくすればいいことになります。3つの熱抵抗に共通している変数は面積なので、面積を大きくするという対策がまず考えられます。

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たとえば伝導熱抵抗の面積を大きくするということは、まず筐体を熱伝導の良い材料で作り、その筐体底面をベタッとテーブル面にくっつけることで熱伝導率を高めるようなことが考えられます。しかしこの場合、たとえ筐体を熱伝導率の大きな銅で作ったとしても、テーブルがプラスチックの場合と金属の場合で放熱性が大きく変化してしまいます。もう一つ、実は筐体をテーブルにベタッとくっつけるだけで本当に熱伝導の面積が増えるのか?という問題があります。
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確かに筐体の面をテーブルにくっつけたら接触面積が大きくなると思われがちですが、実は筐体やテーブルの面はどんなに平らに見えてもミクロレベルでは凹凸があり、面で接触しているのではなく点と点で接触しています。したがって見かけの接触面積に対して実際の接触面積はかなり小さくなってしまいます。また接触していない隙間には空気が挟まっていますが、空気は気体なので密度が低いため、熱伝導率はすごく小さい値です。この固体と固体の接触部分の熱抵抗を接触熱抵抗と言っていますが、それではこの接触熱抵抗を大きくするにはどうすればいいでしょうか?

一番簡単なのは接触部分の隙間を埋めている熱伝導率の低い空気を、空気より熱伝導率の良い材料に置き換えることです。CPUとヒートシンク間に塗っているアレです。一般的にはサーマルインタフェースマテリアル(Thermal Interface Material)、略してTIMと呼んでいますが、熱伝導グリスのほうがわかりやすいですね。これを塗ることで接触面の熱伝導率を改善しますが、そのほかにも固体どうしの接触面積を稼ぐには圧力をかける必要があります。しかし筐体とテーブルの場合は、たぶんグリスを塗るわけにはいかないし、圧力は製品の重さにしか期待できないので現実的には無理そうです。