Club-Z特集:Zuken Innovarion World 2015特別レポート2

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03

☑Club-Z特集

《 Zuken Innovation World 2015 特別レポート② 》
「デライトデザイン技術開発を目指して」
 東京大学 大学院工学系研究科 鈴木宏正教授による講演内容のご紹介

2015.11.26

■ 感性モデリング技術

感性データベースを構築し利用することで、目的の「魅力品質」を実現するための「感性指標」を決めることができるとわかりました。「感性指標」は、言い換えると「人間と製品との間のユーザーインターフェースの特徴」と捉えることもでき、そこから設計に落とし込んでいく必要があります。これに対して、我々はModel Based Design(MBD)と呼ばれている技術を使います。これは、1Dモデルを利用して、製品全体の構造や挙動をシンプルに理想的なモデルとして表現し、詳細な設計を行う前におおよその製品構造や仕様を設計する技術です。
CZ99_suzuki_007.JPG図7 (クリックで拡大表示)
音の魅力を評価する場合、感性モデリングではModel Based Designで作った製品モデルに、音のモデルを加えています。図7はヘアドライヤーのスイッチを入れるとモーターが回り、ヒーターが加熱して暖かい空気が出るというモデルですが、これに加えて動作させたときにどういう音を出すかを計算する「音のモデル」も入れてあります。これにより、機能に注目したモデルに加えて、動作音のシミュレーションが行えるようになります。

このモデルをシミュレーションすると、仮想的にヘアドライヤーの動作音をシミュレーションでき、さらに感性データベースと連携することで、その「仮想的な音」から「感性指標値」を計算し、さらに「魅力指標値」を計算することができます。このように、1Dモデルを利用した1DCAEという手法を利用することで、設計の初期段階で製品の完成まで含めた魅力の評価ができることになります。

例えばここで、初期の製品モデルでは魅力指標値が3点くらいだったとしましょう。魅力指標値を上げるために、ファンを変えたり、モーターを変えたり、あるいは制御の仕方を変えたりということを1Dモデル上で行い、シミュレーションを行うことでその状態の魅力の評価を行うことができ、このループを何度も回して設計をどんどん改良していくことで、目標の点数まで魅力指標値を上げていく、そんなことができるようになればいいなと思っています。

実際には、モデルを作るのは非常に大変です。さきほどのように精密なモデルを作ろうと思うと、ひとつひとつ測定して、作り込んでいくという作業が必要になります。このあたりも感性モデルのライブラリという形で提供できればと思っています。


■ 感性統合化技術
CZ99_suzuki_008.JPG図8 (クリックで拡大表示)
さて、本日は図研のフォーラムということで、図研に再委託をしている回路設計部分について簡単にご紹介させていただきます。具体的には、感性モデリングによって定められた製品仕様を具体的な詳細設計環境へ落とし込んでいく「感性統合化技術」についてご紹介いたします。

図8が全体のフレームワーです。感性データベースや感性モデリングの話は、左側の紫色の枠です。感性に基づく要件定義では、製品の大きな構成が決まっても、個々の要素まで具体的に決めている訳ではありません。実際の電気系・回路系の要件へと設計目標を設定し、具体化していく必要があります。図研が開発している「System Planner」に情報を伝達し、設計目標を達成する部品や回路ブロックを検索、または新規部品の検討を行い、さらにその回路構成の実現性を検証した上で、その結果を詳細な電気設計まで結びつけていく環境の実現を目指したいと思っています。(図8の中央、青色の部分)

ここで、回路ブロック検索を利用した例を紹介します。例えば、新しいヘアドライヤー開発の際、髪の毛を乾かすだけでなく、魅力品質から「しっとりした髪にしたい」という要件があったとします。これに対応するヘアドライヤーの電気回路として「保湿機能回路」を実現する回路ブロックを回路ライブラリから検索します。期待する機能をもつ回路を回路ライブラリの中からキーワード検索し、保湿機能を持つ回路ブロックを探し出し、ブロック図に割り当てます。この際、詳細な回路テンプレートがインポートされますので、それを使ってより詳細な回路設計へ繋げていくことが出来るよう計画しています。

これが感性モデリングから実際の具体的な回路設計システムへと繋ぐ技術、すなわち「感性統合化」という技術開発分野です。


■ 感性リバース技術

最後に感性リバース技術をご紹介します。全くの経験がない設計者が、ゼロから新しいヘアドライヤーを作り上げることは、時間と手間がかかるだけでなく、その実現方法を具体化するだけでも非常に負担がかかります。そのため、既存の製品からできるだけ多くの情報を抽出し、設計初期段階に活かしていく必要があります。具体的には、既存製品を分解して解析したり、3Dスキャナーを使い既存製品の3Dデータ化を行い、製品分析に役立てる技術になります(図9)。
CZ99_suzuki_009.JPG図9 (クリックで拡大表示)
3Dスキャナーを利用すると、製品を構成する各パーツを素材・材質単位で情報を抽出することができ、その情報をもとに3Dデータ化を行うことができます。同じ素材・材質同士が接続された複数のパーツも、それぞれのつなぎ目で分けて別々のパーツとして抽出し、3Dデータ化できます。ヘアドライヤーのような、人の手で分解できる製品だけでなく、大型の製品や分解が困難な製品に関しても3Dスキャナーを使って3Dデータ化し、データの中で分解・分析が行えるようになります。設計者が3Dデータを分析することで、製品構造や形状などを把握でき、1Dモデルを構築する際の参考情報として利用できるようになります。また、既存の製品ではなく、自ら開発した試作品の分析に利用することも考えられます。


■ デライトヘアドライヤーの試作
CZ99_suzuki_010.JPG図10 (クリックで拡大表示)
デライトヘアドライヤーのモックアップ

設計支援という分野は設計そのものではないので、中々分かりにくい分野となります。我々の開発目的を理解してもらい、アピールするためには、実際にデライトな製品を試作してお見せするのが効果的と思いました。そのため、まだプラットフォームは研究開発中ですが、ヘアドライヤーを試作しました。図10にその写真を示します。このヘアドライヤーは、コードレスで持ち易くなっており、またコードレス化によるパワー不足を補うためにジェットポンプの原理に基づいて風量を稼いでいます。また、インダストリアルデザイナーの方にも意匠デザインを担当いただき、その点でもデライトなものができたと思っています。この試作を通じて、新しい原理や構造による製品を設計するには、より本質的な感性モデリングが必要なことも認識し、現在研究を行っています。