コラム
同時にやるシクミづくりとヒトづくり。
やっと気づいた改革の本質
【第40回】予測精度を高めるメトリクス基準モデル
株式会社RDPi 代表取締役 石橋 良造
2014.09.25
経験や実績にもとづく総合的アプローチ
この民生機器メーカーの場合、設計部門は3つに分かれているのですが、仕様や機能の違いはあるもののそれぞれの部署で開発している製品は同じラインナップといえる範囲です。さらに、開発メンバーも多少の移動はあるもののマネジャーも含めてほぼ同じ人員構成です。設計も数年ごとに大幅に回路やソフトなどのプラットフォームが変わるものの、プラットフォームが変わるような「新規」開発とそのプラットフォームをベースとした「派生」開発とに分けて考えると同じような開発作業です。
つまり、プロジェクトごとに細かく見ると様々な違いはあるものの、総合的に見ると一定の枠組みの中で開発しているということができ、少なくとも「新規」と「派生」を区別すれば同じ条件下でプロジェクトを進めていると考えることができます。
図119「製品ごとの開発工程別工数比率」は、設計部門のひとつの部署において開発工程ごとの実績工数比率を比較したものです。メトリクスの仕組みを整備する以前の2年間のデータで、様々な事情で開発が中止になったものや、大幅に遅延したものなどを除いたものです。
開発規模は約 20 人月〜 100 人月と様々ですし、フルスペック機や普及機などの違いもあるのですが、実際、工数比率は同じような傾向になっていることがわかると思います。
基準モデル
失敗したり中止になったプロジェクトを除いて平均的な工数比率を作れば、うまくマネジメントすればどのようなプロジェクトであってもこのような工数比率になるはず、ということができます。このような考え方で作ったものが基準モデルです。図120「工数比率基準モデル」は実際にこの設計部署で作成した基準モデルです。
基準モデルは、うまくいったプロジェクトは同じ傾向があり、その平均値をとったというものですから、ベスト(ベターという方が妥当?)プラクティス・モデルということができます。その組織でのベスト・プラクティスですから、この基準モデルに示した工数比率となるようにプロジェクトを計画し、実行できるようにマネジメントすることを目指すことになります。
ちなみに、図120 の基準モデルの隣にあるのは、大幅に開発遅延したなどの失敗プロジェクトを集めて平均をとった工数比率です。基準モデルと反対の失敗モデルとよんでおきましょう。
基準モデルの利用方法
作成した基準モデルを実際使ってみるとわかりますが、分析的に作成したモデルよりも見積もり精度は高くなりますし、プロジェクトが完了するたびに見直しするだけなので分析モデルを更新するより手間がかかりません。この設計部署でもこの分析モデルをその後ずっと運用していますし、他の2つの部署でもそれぞれ基準モデルを作成して運用しています。
それでは、作成した工数比率基準モデルをこのメーカーではどのように使っているかを紹介したいと思います。計画作成と完了予測が代表的な利用方法です。
計画作成の際には、まず仕様やリリース日程、コスト、確保できる人員などから概略の開発規模を見積もります。ここで重要なことは「現実的な」開発であることです。手当てできるヒト・カネ・モノのリソースの範囲で開発することができるかどうかの大まかな判断をして、現実的な開発期間と総工数を決めます。
こうして決めた期間と総工数に工数比率基準モデルをあてはめることで開発工程ごとの工数を決め、その工程を担当できるメンバーや外部委託する作業規模を決めるという手順で計画を作成します。