コラム
同時にやるシクミづくりとヒトづくり。
やっと気づいた改革の本質
【第39回】やる気の見える化(2)
株式会社RDPi 代表取締役 石橋 良造
2014.08.28
成長につながる仕事のアサイン
チャレンジ・スキル・モデルを使った仕事分析は、個人に対する仕事のアサインが適切かどうかの検討にも使えます。技術力の高さからリーダーとしての活躍を期待されているにもかかわらず、仕事に対する意欲や周りに対する配慮が足りないという評価になっていて、リーダーを任せてもらえない山本さん(仮名)を例にとって見てみましょう。
このグラフは山本さんの3ヶ月間の仕事分析です。マネジャーの評価通り、無気力で仕事に取り組んでいることが多いことがわかります。先月紹介したエンゲージメント調査でも、山本さんは低い評価となっており、仕事に対するやる気や意欲を持てていないことがわかります。山本さんと直接話をしても「今の仕事は自分に合っているとは思えない」「ちゃんと責任は果たしているのだから問題ないはず」というような反応でした。
「無気力」な作業を減らして「フロー」な作業を増やすことが大切です。グラフではわかりにくいのですが「フロー」と「無気力」になっている具体的な作業の上位3つを見てみましょう。
山本さんが担当している業務は、顧客と話をしてシステム全体の観点から製品仕様を提案し合意をとるというものです。IT業界でいうところのシステムエンジニアです。また、東村さんたちマネジャーは、高い技術力を持つ山本さんにプロジェクトマネジャーとしてのスキルを身につけてもらいたいと考えて、意識的に顧客と向き合う仕事をアサインしていたのですが、彼の「フロー」と「無気力」の作業を見ると次のようなことが考えられます。
・自分の技術力向上に意欲的で「教育・訓練」に熱心である反面、
学ぶべきものがないときの失望は大きい。
・自分なりの調査や分析にもとづいたシステム設計、および、その内容を
プロジェクトメンバーと共有することは意欲的に取り組んでいる。
・顧客と直接会って交渉したり提案したりすることに価値ややる気を感じていない。
この分析結果をもとに山本さん本人と話をしてみると、上司の指示なので従っているけれども、客先に出ることや今の仕事のやり方に納得がいかず、やる気が起きないということでした。さらに、現状の属人的なシステム設計のやり方をモデルベースのシステム化されたものにしたいという意欲を持っていることもわかりました。
担当業務を変えることは簡単なことではありませんが、東村さんらマネジャーと議論して、山本さんにはモデルベース設計の勉強をしてもらいながら、客先に出るのを減らした上で実務を通じてシステム設計の方法論を確立する仕事にシフトすることを約束してもらいました。
山本さんの仕事のアサインを変える話をしたのが5月だったのですが、その後3ヶ月経った8月の仕事分析を紹介しましょう。少しですが、「フロー」で取り組んでいる仕事が増え「無気力」が減っていることがわかります。
さて、フロー理論にもとづいた仕事に対するやる気の見える化の事例はいかがだったでしょうか?
チャレンジ・スキル・モデルを使って個別の仕事に対する精神状態を見える化し、それによって改善が必要な業務や、個人に対する仕事のアサインの妥当性を分析することができるというのは、興味深いことではないでしょうか。参考にしていただければと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
●執筆者プロフィール 石橋 良造
日本ヒューレット・パッカード (HP) に入社し、R&D 部門で半導体計測システムの開発に従事した後、開発プロセス改革プロジェクトに参加。ここで、HP 全社を巻き込んだ PLM システムの開発や、石川賞を受賞した製品開発の仕組み作りを行い、その経験をもとに 80 社以上に対して開発プロセス革新やプロジェクト管理のコンサルティングを実施。独立して株式会社 RDPi を設立した後は、より良い改革のためには個人の意識改革も必要、と、北京オリンピックで石井慧を金メダルに導いたピークパフォーマンスのコーチ養成コースを修了し、個人のやる気やモチベーションを引き出す技術の開発と、開発プロセスやプロジェクト管理の仕組み改革との融合を続けています。
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