コラム
同時にやるシクミづくりとヒトづくり。
やっと気づいた改革の本質
【第35回】仕事に対するやる気「エンゲージメント」の計測
株式会社RDPi 代表取締役 石橋 良造
2014.04.24
組織の生産性や効率向上には個人の成長が不可欠です。そして、個人が成長するために大切なのが学習であり、仕事や学習の意欲を生み出すものが「エンゲージメント」です。エンゲージメントについては第30回「個人と組織とのエンゲージメント」で紹介しましたが、今回はその取り組み事例も含めて再度解説したいと思います。
エンゲージメント
「エンゲージメント」は、本来は「関与」や「絆」を意味する単語なのですが、最近は「仕事に対する真剣な取り組み」や「個人と組織が一体となり、お互いの成長に貢献し合う関係」という意味で使われています。仕事との関係を明確にするために「ワーク・エンゲージメント」とも言います。
簡単に言うと、社員の組織の成功に貢献しようとするモチベーションの高さ、そして組織の目標を達成するための重要なタスク遂行のために自分で努力しようとする意思の大きさです。つまり、仕事に対するモチベーションということです。
エンゲージメントの大切さを考えるために、まずは個人の成長について考えたいと思います。組織の生産性やパフォーマンスを上げるには、一人ひとりが成長することが大切ですし、成長している実感がモチベーションにつながるからです。成長の方法を考えるにはスキル構造を理解しておくことが大切です。
「ハードスキル」とは、製品開発や装置操作、IT などその分野に必要な技術を中心としたスキルのことで、「ソフトスキル」とは、ピープルスキルともいわれる、コミュニケーションや動機づけ、チームワークなど人間関係を中心としたスキルのことです。
学習や教育というとハードスキルが中心になりがちです。ハードスキルはもちろん重要ですが、ソフトスキルが向上しないと実際の仕事では活かすことは困難です。誰もが経験していると思いますが、人との関係なくして仕事はできませんから。
そして、ハードスキルにしてもソフトスキルにしても、学習や成長に対する意欲がなければ、いくら教育に時間を使ったとしても身になることはないでしょう。エンゲージメントは、成長に対する意欲であり、成長のためのスキル習得の行動を起こすためのエネルギー源なのです。ハードスキルやソフトスキルの教育に時間やお金を使っているところも多いのですが、一定レベルのエンゲージメントがなければその投資は期待した効果を生むことはないでしょう。
エンゲージメントは、仕事そのものに対してだけでなく、成長のための学習の土台になっています。やる気がなければ学習効果は期待できないのは当然ですよね。
エンゲージメントの調査結果
そもそも(ワーク)エンゲージメントとは、ユトレヒト大学(オランダ)のシャウフェリ(Wilmar B.Schaufeli)教授によって提唱された概念です。感情とやる気を伴うポジティブな充実した状態のことを指し、活力(Vigor)、熱意(Dedication)、没頭(Absorption)の3つの側面からなるというモデルです。
エンゲージメントの研究や調査は年々増えているのですが、その多くが、エンゲージメントが働く人の一人ひとりのパフォーマンスを高め、組織の生産性向上に大きく寄与することを証明しています。
3つの側面について少し説明しておきましょう。
シャウフェリ教授のモデルにもとづいたエンゲージメントを測定するツールに「ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント・スケール (UWES)」というものがあります。UWES を使って様々な国の様々な職業を対象にした調査結果によれば、エンゲージメントは、年齢や性別による相関は低いこと、エンゲージメントが高い人の割合は全体の 20% で、低い人の割合も 20% 程度だということがわかっています。
また、国別、職業別ではエンゲージメントに差があることがわかっていて、日本は最も低いという結果になっています。
ある設計部門でのエンゲージメント
それでは、エンゲージメントについての事例を紹介しましょう。次の円グラフは、ある B to B ビジネスをやっているメーカーの設計部門を対象にしたエンゲージメント調査の結果です。対象者は、マネジャーとリーダーの約 20 人です。
一般的にマネジャーやリーダーはエンゲージメントが高い傾向があるはずなのですが、この組織では「高い」は 20% 程度で平均的なものの、部長や部門長はショックを受けたのですが、「低い」が約 60% にもなっていました。ただ、改善活動をはじめる理由のひとつに、技術者のモチベーションが低いということが上がっていましたので、予想外だったわけではありません。
意外だったのが、次のグラフが示している個人ごとのエンゲージメントです。
ある程度ばらつきがあるとは思っていましたが、結果は想像以上でした。低い人は本当に低く、そんな人が何人もいます。仕事に対するモチベーションにこれほどの違いがあるということは、全員一律の仕組みや教育では効果を出すことは難しいといえます。また、ハードスキルやソフトスキルの面では高いスキルを持っていると考えられるマネジャーやリーダーに、これほどのばらつきがあるということは、一般の設計者への影響は相当大きいはずです。
業務改善やスキル向上のための取り組みの前に、まずエンゲージメントの底上げに取り組む必要があります。そして、その取り組みは、全員一律の取り組みではなく、個人の特性に合わせたものでなくてはなりません。
実際、この会社ではワーキンググループを作って設計の仕組み改善活動を進めているのですが、並行してエンゲージメント向上のための取り組みを行っています。機会があれば取り組み結果も紹介したいと思います。
また、今回の記事が、自分、そして、職場の一人ひとりのエンゲージメントについて考えてみるきっかけになればと思っています。エンゲージメントを無視していては、改善や教育の取り組みの効果を期待することは難しいでしょう。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
●執筆者プロフィール 石橋 良造
日本ヒューレット・パッカード (HP) に入社し、R&D 部門で半導体計測システムの開発に従事した後、開発プロセス改革プロジェクトに参加。ここで、HP 全社を巻き込んだ PLM システムの開発や、石川賞を受賞した製品開発の仕組み作りを行い、その経験をもとに 80 社以上に対して開発プロセス革新やプロジェクト管理のコンサルティングを実施。独立して株式会社 RDPi を設立した後は、より良い改革のためには個人の意識改革も必要、と、北京オリンピックで石井慧を金メダルに導いたピークパフォーマンスのコーチ養成コースを修了し、個人のやる気やモチベーションを引き出す技術の開発と、開発プロセスやプロジェクト管理の仕組み改革との融合を続けています。
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