Club-Zコラム第33回

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03

コラム


同時にやるシクミづくりとヒトづくり。
やっと気づいた改革の本質

【第33回】変わる経済環境への準備はできているか?

株式会社RDPi  代表取締役 石橋 良造

2014.01.30

もう新しい年の 1/12 が終わろうとしています。年が明けたときに感じた、顔を洗ったあとの鏡に写る自分の顔や、いつもの近所の景色が、新鮮で空気が変わった感覚もずいぶんと薄れてしまっています。こういう元旦の朝の新鮮な気持ちを毎日持つことができるようにしたいものです。

さて、昨年はコラムを読んでいただきありがとうございました。今年も、開発現場の支援を通じて得た経験や感じたこと、提案などをお伝えしたいと思っています。引き続き、読んでいただけると幸いです。


変わる開発マネジメント

昨年はアベノミクスで経済環境が大きく変わりました。日本企業にとって4重苦とも6重苦ともいわれていた重荷がずいぶんと軽くなりました。とくに、製造業を中心に最大の懸案だった円高が大幅に修正されたことは大きな変化です。電力不安も一時期よりも大幅に改善され、法人税や自由貿易協定なども改善する可能性があります。

消費者物価指数や耐久消費財価格指数などもマイナスからプラスに転じており、アベノミクスにより 1990 年代半ば以降続いたデフレも終焉しつつあるといえるでしょう。図80 は消費者物価指数のグラフですが、「総合」を示す濃い青色のグラフが大きくプラスに転換していることがわかります。また、グラフは載せていませんが耐久消費財価格指数も同様の傾向です。


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好転している経済環境ですが、気になるのが経営や開発などのマネジメントがそれに合わせて変化する準備ができているのかということです。経済がデフレからインフレに転じることに合わせて、マネジメントの基本的な考え方も変える必要があると思います。

デフレ経済下では、商品価格が下がり続け購買意欲が落ちるため、売上げ、利益を伸ばすことが困難であり、製造業は生産性を上げることが最大のテーマとなっていました。そのため、リストラに代表される様々な領域での絞り込みや、品質管理や開発プロセス管理などのムダを生じさせないためのルール作りを強化してきたことが重視されてきたのだと考えます。

しかし、インフレになると物価が上昇し、傾向として売上げが伸びることになります。購買意欲も高くなり、価値に対する対価を得やすい環境になるといえるでしょう。インフレ経済下で大切になるのは、いろいろなものを絞り込んで収益を上げることではなく、価値を生み出すことであり、その本質は技術者の働く意欲や意義を大事にすることだと考えます。

今後の成長を決めるのは、長引いたデフレ時代に染みついた考え方や構築してきた仕組みを見直すことができるかどうかだと思いますし、カギとなるのは技術者育成など、人を大事にする組織文化を本物にできるかどうかではないでしょうか。

私も、もともと組織の仕組みと個人の意識の両面から開発マネジメントを考えることをテーマにしているのですが、今年はより一層、技術者育成の観点を大事にして開発現場の支援を続けたいと考えています。


自己効力感

技術者個人の意識を考えた時に大切になるのが、新しいことに挑戦する姿勢です。この一人ひとりが自ら行動を起こす意識は「自己効力感 (Self Efficacy)」とよばれる仕組みに大きく関係しています。



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人が行動を起こすための仕組みは、「結果期待」と「効力期待」とに分けて考えることができます。結果期待は、ある行動がどのような結果を生み出すかという予測のことです。そして、効力期待とは、結果を生み出すために必要な行動をうまく実行できるかという予測のことです。

結果期待は行動を起こした後の期待ですから、行動を起こすには効力期待が高いことが必要です。したがって、自己効力感が高いというのは、結果がどうなるのかわからないけど、とにかくやってみようと思えることです。さらに、自己効力感が高くなると、何かをやり遂げるときに必要になる持続力や忍耐力も高まることもわかっています。自己効力感はモチベーションに強く関係しているわけです。

自己効力感を高めるためには次の4つの方法があると言われています。

1. 達成体験
自分の中で系統的に達成可能な小さな目標を設定し、成功体験を積み重ねていくことです。スモールステップ法とも言われています。

2. 代理経験
あの人ができるのだから私にもできるだろうと思える人を特定し、その人の何かを達成したり成功したりする行動を観察することです。モデリングと観察学習です。

3. 言語的説得
自分の行動や努力を信頼している人から評価されるなど、自分に能力があることを言語的に励まされることです。

4. 生理的情緒的高揚
酒などの薬物やその他のものを使って気分を高揚させることです。

この中で、自分一人でできて、かつ、もっとも効果が高い方法が「達成体験」です。毎日、小さくてもかまわないのでチャレンジを繰り返すことを意識しましょう。



今年の初詣は、早稲田にある穴八幡宮に行きました。神様頼みで、自己効力感を高めることにはなりませんが。

穴八幡宮には「一陽来復」という有名なお守りがあります。このお守りは節分の夜に部屋の高いところに取りつけるというもので、いつもは節分直前に買いに行って(お受けして)いるのですが、今年は正月早々手に入れることができて、うれしい達成体験となりました。

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一陽来復とは、春の到来や凶事が去って、吉事がふたたびもどって来ることを意味するそうです。今年は、日本経済、日本の製造業が再び世界から注目を浴びる年になってほしいと思います。そして、そのお手伝いをすることが今年の私の思いです。

それでは、今年もどうぞよろしくお願いいたします。






speaker.jpg●執筆者プロフィール  石橋 良造
日本ヒューレット・パッカード (HP) に入社し、R&D 部門で半導体計測システムの開発に従事した後、開発プロセス改革プロジェクトに参加。ここで、HP 全社を巻き込んだ PLM システムの開発や、石川賞を受賞した製品開発の仕組み作りを行い、その経験をもとに 80 社以上に対して開発プロセス革新やプロジェクト管理のコンサルティングを実施。独立して株式会社 RDPi を設立した後は、より良い改革のためには個人の意識改革も必要、と、北京オリンピックで石井慧を金メダルに導いたピークパフォーマンスのコーチ養成コースを修了し、個人のやる気やモチベーションを引き出す技術の開発と、開発プロセスやプロジェクト管理の仕組み改革との融合を続けています。
●株式会社 RDPi :http://www.rdpi.jp/
●メトリクス管理ウェブ : http://www.metrics.jp/
●Email :  ishibashi@rdpi.jp
●ブログ : http://ameblo.jp/iryozo/entrylist.html
●facebook : やる気の技術   仕組みと意識を変える RDPi


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