Club-Zコラム第3回

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03

コラム


同時にやるシクミづくりとヒトづくり。
やっと気づいた改革の本質

【第3回】幸せについて考えてみた

株式会社RDPi  代表取締役 石橋 良造

2010.10.28

■他者信頼(他人が信頼できる)

自分を好きだったらそれで十分というわけではありません。自己中心的で思い上がった人間は幸せにはなれません。幸せと感じるには他者との関係が重要になります。それは、他者を信頼する、この世界を信頼するということです。

他人とつき合うのは簡単ではありません。価値観や性格が違うことで自分の不利益になることもあります。それでも、そういう人たちと協力して、力を合わせて生きていくことが、人間が生きていく上で必要なこと、避けることはできないことだとアドラーは言っています。そのためには、信頼に基づいて不必要な競争はしないということが大切になります。他の人を蹴落とすことで自分の立場を良くするような競争は、心の不健康をもたらすだけだと考えます。

競争は自分と他人とを比較することにもなります。「あの人に較べて私は劣っている/優れている」というのは、他人への不信感から生まれる競争心だと考えられます。そして、自分に対する自信のなさの裏返しとも言えるでしょう。

他者信頼とは、信頼している他人によって作られているこの世界は、とても安全なところで、決して、勝つか負けるか、食うか食われるかという戦場のような場所ではない、と考えるということです。みんなが協力して、ひとつの理想を実現していく場として、この世界をとらえることです。ここまで言ってしまうと、私自身、理想的すぎて、とてもそこまでの考え方はできないと思ってしまいます。子どものときから競争を前提とした生き方だったからもしれませんが、少しずつでも考え方を変えていくことができればいいのだと思っています。

これは、別の言い方をすれば、「私は集団の一員であり、この世界の中にはちゃんと自分の場所がある」と感じられるということです。みんなは私を傷つけようとしているのではなく、助けてくれようとしていると信じられるということです。この言い方の方が理解しやすいかもしれません。

これは「所属感」と言い換えることができます。「この世界の中」というのは、家族の中でも、職場の中でもかまいません。自分の居場所がある、私の役割がある、ということです。自分が他人を信頼することで、他人も自分を信頼しているという感覚が生まれ、所属感を持つという感覚になるというわけです。

ところで、「信頼」と「信用」との違いは何か変わりますか?

何かしらの根拠が前提となるのが信用です。たとえば、銀行がおカネを貸すのは、その人が土地を持っているとか、安定した仕事をしているとか、何かしらの信用がある場合だけです。まさに、信用です。つまり、取引という概念が入っています。

一方、信頼というのは根拠がないのに信用するということです。人に対して白紙の小切手を切るということです。白紙の小切手を渡して「あなたは悪いようには使わないだろうから、自分が良いように使いなさい」と言えることが人を信頼するということです。

「あれだけしてやったのに信頼を裏切られた」ということがありますが、これは信用。裏切られると思っているのは「あなたがちゃんとやれば」という条件がついていて、これは取引なのですね。

他者信頼とは、信用ではなく信頼するということです。


■貢献感(社会に貢献できる)

では、この世界に所属していればいいのか、受動的に、みんなに助けられて生きていけばいいのかというと、それだけでは不十分です。自分もまた、他の人たちを助けたいと思うことが幸せには必要なことです。

これは「自分は役に立つ」「他の人たちの役に立っている」と感じる貢献感を持つということです。たとえば、老人ホームで、ヘルパーの人が必要なことは全部やってくれて楽なんだけど、生きている気がしないという話をしばしば耳にします。これは、不自由なことがなくても、何かの役に立っている気がしないと不幸に感じるということです。実際に役立っているかどうかは関係ありません。役立っていると感じられるかどうかが大切です。

この貢献感について、アドラーの弟子のひとりのドライカースはこういっています。「ある出来事が起きたときに、心が健康な人はこれはみんなにとっていったいどういうことだろうかと、まず考える。心が不健康な人は、これは自分にとってどういうことだろうかとまず考える」。つまり、貢献感というのは、ある状況をみんなのものとしてとらえ、みんなにとって良いことか悪いことかを最初に考え、その中で自分のできる役割を考えるということです。私も発展途上なのですが、確かにこういう考え方ができる人っていますよね。

そして、この貢献感というのは、子どもでも部下でも、人の育成にとても大切な要素です。「あなたはなくてはならない存在で、あなたがいるからとても助かる」という機会を、絶えず作り出していくことが、大きく成長させるためにとても大切なことです。反対にいうと、何もかもしてあげるのはよくないということですね。これも気をつけなければいけないところです。


■日常生活での心がけ

チリ鉱山事故のルイス・ウルスアさんは、発見してもらえるまでにかかる日にちと食料から、48時間に一度、スプーン2さじ分のツナと、牛乳コップ半分という、1人当たりの食事の量を決め、さらに、通信係、医療係、記録係など一人ひとりの役割を決めたということです。

閉じ込められた 33 人は、一人ひとりが自分は何をすればいいのかという明確な目標を持ち、それを実行することで閉じ込められた共同体の一員として役立っていることを認識でき、それが自分の居場所が確保されているという感覚につながっていたのではないかと思います。自己肯定、他者信頼、貢献感を高めることで、極限の状況下でも一人ひとりのやる気や幸せを引き出したことが今回の奇跡を生んだのではないかと思います。

日常生活においても、幸せに過ごすためはこの3つの要素を意識することが効果的です。それには、それぞれについて今が何点なのかと点数付けするのが良いと思います。たとえば、それぞれを 10 点満点として今日は何点だったのかを考える。毎日寝る前に考えるとか、何かしらの習慣化ができるといいですね。何が良かったとか、何が悪かったとかの分析はしてもしなくてもかまいませんが、どういうときに点数が上がるのかがわかると、それはすごい発見です。

しつこいですが、点数が低いと気を揉むことは絶対にありません。自分の心の状態を知ることが大切なのです。10点じゃないことを嘆いたり、人と比較して点数が低いことに落ち込んだりするのは、まさに自己肯定感が低いということになります。

それでは今、自己肯定、他者信頼、貢献度。それぞれ何点ですか。点数をつけてみてください。
そして、それぞれ高い点数のときはどんな生活をしていると思いますか? また、このうちのどれかを1点上げるには、何をすればいいと思いますか?

今回のお話はいかがだったでしょうか。普段はあまり口にしないかもしれない幸せについて、深く考えるきっかけになったらうれしいです。

では、また。




column_20100930_3.JPG●執筆者プロフィール  石橋 良造
日本ヒューレット・パッカード (HP) に入社し、R&D 部門で半導体計測システムの開発に従事した後、開発プロセス改革プロジェクトに参加。ここで、HP 全社を巻き込んだ PLM システムの開発や、石川賞を受賞した製品開発の仕組み作りを行い、その経験をもとに 80 社以上に対して開発プロセス革新やプロジェクト管理のコンサルティングを実施。独立して株式会社 RDPi を設立した後は、より良い改革のためには個人の意識改革も必要、と、北京オリンピックで石井慧を金メダルに導いたピークパフォーマンスのコーチ養成コースを修了し、個人のやる気やモチベーションを引き出す技術の開発と、開発プロセスやプロジェクト管理の仕組み改革との融合を続けています。

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