アナログ回路

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑アナログ&ミックスド・シグナル回路の設計と
 基板レイアウトで知っておくべき基礎技術

14.デジタル回路の部分もなめてかかってはいけない③

アナログ・デバイセズ株式会社 石井 聡

2011.09.29

14-1 ハイスピード・デジタル信号ではパターンは伝送線路

コンバータICやDSPなど(駆動側IC)と、負荷となるデジタルIC(負荷側IC)とのバス転送レートが高速になってくると、思いもよらぬ問題が目立ってきます。
図14-1に示すように、駆動側ICから出力されたデジタル信号が、負荷側ICに向かってパターン上を「波」として伝わり、それが負荷側ICで反射して、駆動(コンバータ)IC側に戻ってきます。
とくに駆動側ICの出力段が高電流出力(つまり低インピーダンス)である場合は、再度ここでも反射して、このパターン上を行き来するようになります。
これは「波形が暴れている」ような状態ですから、ミックスド・シグナル・システムのアナログ回路部分に、間違いなくいろいろな影響を及ぼしてしまいます。
この現象のプロセスは一般的なデジタルICの出力でも同じですので、その場合でも充分に注意する必要があります。

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図14-1 デジタル信号が負荷ICに向かって波として伝わり、反射して駆動(コンバータ)IC側に戻ってくる


■反射を減らすには複数の方法がある
この対策としては、駆動側ICの駆動電流量が低めのICを選ぶという方法と、連載第12回の図12-5LinkIconと同じように、IC出力に直列抵抗を挿入する方法、そして図14-2のように負荷側を終端するという方法があります。
いずれにしても信号の反射が生じないように、もしくは反射が少なくなるように、回路を構成/レイアウトしていくところがポイントです。

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図14-2 負荷側を終端して信号の反射を減らす


■LVDSを使うとデジタル信号を高速かつ安定に伝送できる
LVDS (Low Voltage Differential Signaling) 伝送を用いることも一つです。高速コンバータICではLVDSインターフェースを内蔵するものが多くあります。
あらためて以降でも、LVDSについてもう少し詳しく見ていきます。

14-2 デジタル・ノイズ自体の発生を減らし「ノイズを元から対策」する

ミックスド・シグナル・システムの性能が劣化してしまう最大の原因は、システムのデジタル回路部分からのノイズの影響による、アナログ回路性能の劣化です。重要なアナログ回路部分がデジタル・ノイズの影響を「受けないようにする」方法は、これまで詳しく説明してきました。
逆にこのノイズを「根源から減らす」方法も検討する価値があります。

■デジタルICから生じるノイズの複数の原因
デジタルICはノイズを多く発生します。TTL ICであってもCMOS ICであっても、程度の違いこそあれノイズが発生することに変わりありません。これは主に以下の原因からです。

  • スイッチング時の非常に短いあいだ、IC内部の電源とグラウンド間が短絡状態になり、それによって大きな電流スパイク・パルスが生じる
  • IC入力に流れる電流量が、ロジック0とロジック1の遷移で急激に変化する
  • IC出力で数nsの間に変化する振幅変動量が数ボルト程度と大きい

HCMOS ICにはスイッチング時に入力容量が充放電することで生じる、電流パルスがあります(上記に比べると小さいものですが)。また近年では図14-1で示したような信号パターン上での多重反射によるノイズも要注意です。
VHCシリーズなど高速なCMOS ICの出力は、高スルーレート(dV/dT)であり、出力振幅が大きい(電源電圧が高い)場合、スイッチング時に上記に示したようなスパイク状の大きい電源電流が、大きなノイズ源になることがあります。こちらも注意が必要です。

■ECLも良好だが、現代ではLVDS(差動伝送)が用いられる
TTLやCMOS以外の高速ロジック・ファミリとして、ECL (Emitter Coupled Logic) というものがありました。これはスイッチング時にほぼ一定の電流を引き込み、出力電圧振幅はTTLやCMOSに比べて小さいものです。そのためTTLやCMOSより高速であるにもかかわらず、ECLはノイズの発生が少ない特長があります。
しかしECLは現代では「化石」とも言えるもので(PECLというファミリも改めて使われていますが)、あまり一般的ではありません。
ここで最近脚光を浴びてきた伝送方式が「低レベル信号での差動伝送」という技術です。
現代のプリント基板内での伝送ではLVDS (Low Voltage Differential Signaling) という方式が多く用いられています。
考え方としてはECLに幾分近い(「差動」という点は除く)もので、たとえばシリアルATAやUSB2.0、IEEE1394もこれらの仲間です。次の節に示すような特徴があるので、プリント基板上で低ノイズでデジタル信号を伝送することができます。そのためミックスド・シグナル・システムに最適と言えるでしょう。