アナログ回路

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑アナログ&ミックスド・シグナル回路の設計と
 基板レイアウトで知っておくべき基礎技術

10.電源回路から発生するノイズをプリント基板レイアウトの視点で対策する

アナログ・デバイセズ株式会社 石井 聡

2011.05.26

10-1 電源回路の問題は検討することを忘れがち

電子回路を設計するとき、電源回路の影響や問題を見逃してしまうことが多いのではないでしょうか。これは回路全体のシステム設計の方に目が(思考が)行ってしまうからだと思います。
電源回路からは「ノイズの全くない電力」が当たり前のように得られ、「出力電圧もぴったり」であり、「あらゆる周波数で出力インピーダンスもゼロ」だと、無意識に思い込みがちです。
電源回路に使用するICについても、電源電圧変動除去比(PSRR; Power Supply Rejection Ratio)のスペックは、「直流から高周波までのあらゆる周波数で、そのスペックのとおり」だと考えてしまうことでしょう。
しかし実際にこれらのようなことはありませんし、逆にアナログ&ミックスド・シグナル回路ではとても重要な、注意すべきポイントなのです。


10-2 アナログ回路において電源回路は落とし穴

■電源回路がノイズ源になる
あらゆる電源回路からはノイズが生じます。このノイズは長期電圧ドリフト、100Hz(50Hzの2倍)または120Hz(60Hzの2倍)のリップル、そしてスイッチング・レギュレータから出る高周波スイッチング・ノイズなどが例といえるでしょう。これらのいずれか、あるいは全てがノイズとして一緒に生じることもあります。
また電源回路は出力インピーダンスが有限であるため、回路(負荷)電流が変動すると、電源電圧も電流とともに変化します。図10-1のように、共通の電源で2つのサブ・ブロック回路に電源を供給する場合には、このしくみで片側の回路からもう一方の回路に電圧変動の影響が及んでしまうことになります。これも電源回路により生じるノイズと言えるでしょう。

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図10-1 共通の電源で2つのサブ・ブロック回路間での電圧変動によるノイズ


■電源電圧変動や高調波リップルはそれでも対策ができる
これらの影響をすべてモデリングできれば、定量化して見極めることで、システム全体への影響を最小限に抑える対策(回路選択とレイアウト)を講じられるはずです。
バッテリの寿命による電圧降下や、ACライン電圧変動など、長期的な電源電圧変動がノイズとして問題になることはめったにありません。システムに安定化電源としてシリーズ・レギュレータを組み込んで、許容できる範囲内に変動を抑えればよいからです。
ACライン周波数の2倍/3倍の高調波リップルや、ACラインからシステムに混入するおそれのあるスパイク/高周波ノイズに対しては、しっかりプリント基板上でノイズ対策を施し、システム性能が低下しないようにする必要があります。
なおデカップリング・コンデンサを用いた場合に、整流回路内で発生する高調波ノイズを十分に抑えることができなくても、後段にシリーズ・レギュレータを挿入すれば、ほぼ確実にこのノイズは除去できます(発生する周波数が低いため)。
しかし、スイッチング電源で発生するスイッチング・ノイズは、非常に厄介な問題です。今回はとくにスイッチング・ノイズについて以降で深く掘り下げてみます。

10-3 スイッチング電源からはかなりのノイズが発生する

■容量的、磁気的な結合ノイズ、放射するノイズには要注意
電源ノイズで一番よくあり、問題になるものは、スイッチング電源から発生するスイッチング・ノイズです。スイッチング電源は、小さく安価で効率的ではありますが、ほとんどのものが大きなノイズを発生させます。図10-2にスイッチング電源出力のノイズをスペクトラム・アナライザで計測したようすを示します。50MHzという非常に高い周波数にまでノイズが及んでいることがわかります。



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図10-2 スイッチング電源出力のノイズをスペクトラム・アナライザで計測してみた

スイッチング電源は、プリント基板上のパターンを伝わる伝導ノイズだけでなく、容量的・磁気的に空間から「結合するノイズ」や「放射するノイズ」、つまり電磁界ノイズもさかんに発生します。
アナログ&ミックスド・シグナル回路の設計をするうえで一番良いのは、スイッチング電源を使用しないことでしょう。


■現代の電子回路はスイッチング電源とともにある
しかし残念ながら、現代の電子回路設計においては、スイッチング電源を「使わざるをえないケースがほとんど」と言えるのではないでしょうか。このときの注意点を図10-3に示します。

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図10-3 スイッチング電源を使うときの注意点


またこの場合には、最大限の注意を払ってシステム全体を考える・取り扱う必要があります。図10-4に示すような、考えられる限りのあらゆる対策を講じて、アナログ回路の特性がスイッチング電源のノイズで損なわれないようにする必要があります。それぞれ引き続き説明していきます。
特にスイッチング電源が発生する電磁界ノイズにより、システムに深刻な障害が生じないように、きちんと対策を講じなければなりません。

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図10-4 考えられる限りのあらゆる予防措置を講じる