アナログ回路

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑アナログ&ミックスド・シグナル回路の設計と
 基板レイアウトで知っておくべき基礎技術

7.グラウンドと信号配線のパターン・レイアウトを最適化する(1)

アナログ・デバイセズ株式会社 石井 聡

2011.02.24

7-1 回路図に現れない信号のリターン電流経路を考える

すべての電流はループとして流れており、回路を解析するときは必ずリターン電流を考慮する必要があります。今回以降、3回にわけて、意外と忘れがち・気がつかない、電流のリターン経路……つまり「グラウンド」について、プリント基板レイアウトの視点から考えてみます。

■回路図の「グラウンド」記号からはリターン電流を忘れがち
差動信号伝送でパターン・レイアウトを考えるとき、ほとんどの人がリターン電流のことを考慮に入れるでしょう。
しかし、信号が「グラウンド」を基準とする普通の回路として考えるときは、リターン電流のことを忘れてしまい、図7-1のように回路図上のグラウンド記号が書き込まれているすべての点は「同電位だ」と考えてしまいがちです。これは現実のプリント基板のパターン・レイアウトの視点では正しい考え方ではありません。

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図7-1 すべてのグラウンド記号は同電位だと考えてしまいがち


実際には、図7-2に示すようにすべての電流は回路内をループとして流れています。回路を解析・検討するときは、とくにグラウンドに流れるリターン電流を考慮する必要があることがわかります。

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図7-2 電流は回路内をループとして流れている


7-2 グラウンド・ノイズとグラウンド・ループ

現実のグラウンドのモデルを図7-3に示します。図7-1に示す「同電位だと考えてしまいがち」な2つのグラウンド間に存在するインピーダンスにリターン電流が流れ、信号の経路全体で電圧降下が生じてしまいます。
この電圧降下を「グラウンド電位」として、さらに深く考えてみましょう。

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図7-3 現実的なグラウンドのモデル


■信号電流と他の回路電流が共有すると事態は深刻
図7-3でも示してありますが、「①リターン電流」と「②自身の回路のリターン電流以外の他回路の電流」が、それぞれ同じグラウンド経路に流れると、そのグラウンド経路のインピーダンスにより電圧降下(電圧ノイズ)が生じます。それによりADC(ADコンバータ)が、電流①・②によって生じた電圧降下を電圧ノイズとして検出してしまうことがあります。

このようすをもう少し具体的な例として図7-4に示します。この例はセンサ信号(アナログ信号)電流と他の大電流スイッチング回路の電流が、グラウンド・リターン経路を共有しているものです。この大電流スイッチング回路により、電源とグラウンド・リターン経路に大きいスイッチング変動電流が流れてしまい、センサ信号を検出するADC回路に深刻な性能劣化が生じてしまいます。

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図7-4 他の大電流スイッチング回路のスイッチング電流がグラウンド・リターン経路を共有している場合


■グラウンドがループの場合は誘導誘起電圧が生じる
さらに図7-5のようにグラウンドがループになっている場合は、外部磁界からの誘導による誘起電圧(電圧ノイズ)が生じやすくなります。
またこの場合には、信号のグラウンド電流が、本来意図しない経路を流れることがあり(大電流の電圧降下でポイントごとの電位が変動するため)、これによって重要なアナログ回路部分でノイズが発生する可能性がさらに高くなります。
これらの理由により、グラウンド・ループはできる限り出来ないようにパターンをレイアウトしたほうがよいでしょう。


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図7-5 グラウンドがループになっていると誘導誘起電圧が生じやすい


■やみくもに「グラウンド・ループ」はダメだとしない
しかし、ループになったグラウンドによって生じるノイズのレベルが許容値以下であれば、このような接続方法が、性能向上やインピーダンス低減の点で有利だということもあります(たとえば両面基板に多い)。この場合、グラウンド・ループが含まれていてもグラウンド・レイアウト設計が最適だということがあります。この例は「メッシュ接続」として、実際にも見ることがあります。
綿密に回路設計とプリント基板を評価した結果として、このようなレイアウト設計が「実用として最適」だと判断されれば、「グラウンド・ループ」という言葉が作り上げる迷信的恐怖のせいで、そのようなレイアウト設計に躊躇する必要は無いのです。

■対策は複数ある
このようにグラウンドのレイアウトはやっかいです。しかし、「超伝導導体でグラウンドをレイアウトする」という非現実的な方法でなくても、グラウンド・ノイズ問題に対処するのに、いくつかの方法を考えることができます。
ひとつの対処方法だけが適用できて、ほかの方法が使えないということはありません。現実のプリント基板設計では複数の方法を組み合わせて対処することが実際です。
しかし、ここでは説明のために、それぞれの方法を分けて示していきます。