アナログ回路

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑アナログ&ミックスド・シグナル回路の設計と
 基板レイアウトで知っておくべき基礎技術

6.プリント基板上で長さがある導体すべてはインダクタと考える【インダクタンス】

アナログ・デバイセズ株式会社 石井 聡

2011.01.20

6-1 すべての導体はインダクタンスを生ず。「浮遊インダクタンス」

すべての導体には誘導成分があり、高周波領域では、きわめて短いリード線のインダクタンスでさえも大きな問題になることがあります。図6-1(a)のような、長さL[mm]、半径R[mm]の円形断面を持つ直線リード線のインダクタンスは、自由空間において次式で表すことができます。

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一方、図6-1(b)のような、幅W[mm]、厚さH[mm]のストリップ・ライン(基板パターンのようなもの)のインダクタンスは、自由空間において次式で表すことができます。

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図6-1 インダクタンスを生じることになる導体の構造(本文中はL,R,W,Hの単位はmmとして説明)

■近似値であっても設計・レイアウトでは十分な指標
これら2つの式の答えは、いずれも近似値ではありますが、実際のシステムでは、これでも回路動作に影響を与えるインダクタンス量の概略値をつかむには十分です。これらの式で計算すると、長さ1cm、直径0.5mmのワイヤは7.26nHのインダクタンスになり、長さ1cm、幅0.25mmの基板パターンは9.59nHのインダクタンスになります。これらはいずれも測定値とは十分近い値になっています。
7.26nHのインダクタンスは10MHzで0.46Ωのインピーダンスになるため、50Ω系で1%の誤差を生じさせる可能性があります。

6-2 相互インダクタンスはふたつの導体どうしが影響するもの

これ以外でインダクタンスについて考慮すべきポイントは、流れ出る電流とリターン電流が別経路にレイアウトされている場合です。

■電流経路はインダクタ、ループ面積でインダクタンスが決まる
キルヒホッフの法則によると、電流は閉回路を流れ、常に往路と帰路があることになっています。つまり経路全体でシングル・ターン(単巻)のインダクタになります。
プリント基板上にこのようなパターンがあったことを考えてみましょう。パターン1周が囲むループ面積が大きければ大きいほど、インダクタンスが大きくなり、交流インピーダンスも同じく大きくなります。
逆に往路と帰路のパターンが近接してレイアウトされていれば、インダクタンスはずっと小さく抑えられます。この原理を図6-2に示します。

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図6-2 プリント基板上で生じるインダクタの制御方法

■ループ面積が広いと外部と干渉しあい、またノイズが生じる
図6-2の悪い配線レイアウト設計の例の方には、もう1つ欠点があります。パターンが作る大きなループ面積から外部磁界が広く発生し、ほかの回路と干渉しあい、余計な結合が引き起されることがあります。
同様にループ面積が広くなると、外部磁界との相互誘導の影響を受けやすくなり、ループ内に不要な信号が誘導(「誘起」ともいう)されることがあります。この基本的な原理を図6-3に示します。これが不要な信号(ノイズ)が回路間で伝達される一般的なメカニズムです。

■レイアウトでは干渉が低減できるようにループ面積を縮小する
考えうるその他の多くのノイズ源と同様、作用する原理が理解できれば、その影響を抑える方法もすぐにわかります。図6-3に示す式のパラメータのうち全て、もしくは一部を小さくすれば、結合を低減させることができます。
干渉を引き起こす信号の電流の「周波数や振幅」を小さくすることは現実的ではありません。実際は図6-4のように、干渉を及ぼす側の回路と、干渉を受ける側の回路の両方で、それぞれのループの面積を縮小し、できれば回路間の距離も離すことで、相互インダクタンスを低減できます。

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図6-3 作用する原理と影響度合いとそれらを示す式

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図6-4 干渉を及ぼす側と干渉を受ける側の両方で面積を縮小し距離も離す

■フラット・ケーブルの場合のテクニック、そしてツイスト・ペアを使おう
フラット・ケーブルの場合、それも特に図6-5(a)のように、複数の信号で1本のリターン経路を共用している場合は、相互インダクタンスが問題になりがちです。同図(b)のように信号ごとに信号ラインとリターン・ラインを分離すれば問題を軽減できます。
また図6-6のようなツイスト・ペア・ケーブルを信号ごとに使用すれば、さらに良好になります(スダレ・ケーブルと呼ばれるツイスト・ペアをフラット状にしたものも市販されています。ただしこれは高価であり、多くの場合そこまで必要はありません)。

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図6-5 フラット・ケーブルも相互インダクタンスが問題になりがち

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図6-6 ツイスト・ペア・ケーブルを信号ごとに使用すればさらに良好

■磁気シールドという方法も可能ではあるが…
図6-7のように相互インダクタンスは「磁気シールド」で抑制できることはできますが、電界をファラデー・シールドという方法(連載第4回参照LinkIcon)でシールドするほど簡単ではありません。高周波磁界は導電材料を使ってブロックできますが、低周波磁界と直流磁界は高透磁率金属シートで作られたシールド材料でブロックする必要があります。
この材料はきわめて高い透磁率を持つ合金ですが、一方高価であり、機械的ストレスで磁気特性が低下してしまい、さらに高磁界環境にさらされると磁気飽和してしまいます。そのためできるなら使用しないほうが無難です。

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図6-7 相互インダクタンスは「磁気シールド」で抑制できる