EMC設計編

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更新日 2016-01-20 | 作成日 2007-12-03


☑コストリダクションプログラム

3.EMC設計編
対症療法のコストダウンでは氷山の一角しか崩せない。

2010.11.25

1 見えていないロスコスト~最近あった事例から
ある産業機器の例です。弊社に持ち込まれた時には既に3回目の量産試作でした(既にこの時点で1回目の出荷遅延を宣言されていました)。仕向け地別に作成したうち、ある仕向けの製品がEMCの規格を通せず困っていらっしゃいました。膨大な回数の測定もして、社内の解析部隊の総力を挙げてシミュレーションをしたが、解決できていないという話です。既に改版及び調査に1,000万円はかけているという話でした。
コンサルティングにより現物を弊社EMCラボに持ち込んでいただいた結果、半日で原因がわかり、対策まで出来ました。
この場合、改版・調査に掛かった費用も大きなロスコストでしたが、5ヶ月という機会損失はさらに膨大です。このケースですと、5ヶ月前にリリースできたと仮定したとき、この期間に得られた利益を試算すると、実に8億円を超えるという結果になりました。

もうひとつ例を挙げます。今度は民生機器です。前機種では、土壇場までEMCの規格が通せず、結果としてコアや後付のEMC対策部品を膨大に付けて何とか出荷に間に合わせたそうです。次の機種では、我々のサービスを適用した結果、EMC対策部品100個を取ることができました。
この場合、後付の対策部品が取れた効果も大きいですが、余計な基板の改版がなくなった、EMCサイトの使用回数減少、設計者の拘束時間の短縮、金型改版がなくなったなどのさまざまな効果も上がり、大きなコストダウンにつながりました。直接的な部品コストの減少を除いて、もしはじめから適切なEMC対策を実施していたら必要なかった無駄な工数・費用を試算すると、これも6億円を超えるという結果になりました。さらに大事なのはこのコスト削減はこの製品だけでなく継続的に期待できるものなのです。crp_101125_1.JPG

一般的に社内でEMC問題を取り上げた場合、高価なEMC対策部品の価格や開発やり直しの際の費用ロス(ボードの改版と再測定のためのEMCサイト使用料)に目がいきがちです。しかし、もっと目を向けなければいけないのは、設計者の時間と労力(測定に徹夜して、対策に苦労して、みんなを巻き込んでアイデア出しをして…そうしてEMC問題に関わっている膨大な時間と労力)であり、これこそが大きな隠れたロスコストになっているのです(このロスは顕在的な費用ロスの2~3倍にあたるという説もあります)。この「EMC対策に関わる時間をどれだけ減らせるか」が、製品全体の潜在的なコストダウンにとって大変重要なポイントになります。


2. 「知ってるつもり」のEMC
一般的な解決の方向性としては、EMCサイトの自社建設または増設があります。これは「間際に見つかるから、納期がクリティカルになり、徹夜を繰り返してしまう、もっと早く見つけておけば、対策が打てるはず」という、早期発見の考え方に基づいています。しかし、一口にEMCサイトの建設と言っても、3m小型電波暗室で認定まで取ると1億円以上の投資になります。まして維持メンテする人の人件費、測定機器の保守費などが膨らんでいきます。しかも、この手段を採ったお客様は、大抵数年後に、さらなる増設の話になっていきます。

また、EMCシミュレーションの導入に進むユーザも多数いらっしゃいます。これは「事前にEMCシミュレーションで危ないところをしっかり検証すれば、最終のEMCサイトでの結果も良好になるはず」という考え方です。しかし、この手段を採ったお客様は、大抵数年後に、使わなくなり保守を切ることになってしまいます。EMCシミュレーションも一般的には1,000万円近くと、決して安くはない投資です。立ち上げ人員の人件費、保守費など運用時にも大きな費用がかかります。

上記2つの事例は、ともに「早期発見=解決」に着眼して投資をしたものです。けして間違っているわけではないのですが、ここで注意していただきたいのが、「発見できさえすれば、どう直すかは現場が判っているはず」という前提条件です。実際の現場はどうでしょうか?発見した事象を元に原因究明がすぐにできてさっと直せているでしょうか?見つかったのはいいけれど、手当たり次第に手当てを行い、測定を繰り返し、徹夜を重ねている…というのが現実ではないでしょうか?
EMCでは必ずしも「早期発見=解決」とはならない、という現実があります。当たり前ですが投資した設備やツールは、自ら原因究明はしてくれませんし、対策方法も教えてくれません。冒頭の事例でも、「どこをシミュレーションするか」を設定しないと、答えに行き着きません。皆さん設計者が電気のプロであるが故に、「(電気に起因する)EMCのロジックや、べからず・ノウハウは知っている」はずという固定観念があります。

我々人間には、3つの世界があると言われています。

        「知知」:つまり知っていることを知っているという世界
        「知不知」:”知らない”ということを知っている世界
        「不知不知」:”知らない”ということすら知らない世界



電気設計者の方々はEMCに関して「知知」だと思っていますが、実は「不知不知」なのです。自転車への乗り方は知っていても最初からは乗れません。泳ぎ方は知っていても最初からは泳げません。同じようにEMCのロジックや、べからず・ノウハウは知っていても、EMCが解決できるわけではないのです。